基本データ・おススメ度
『デザート・フラワー』
原題:Desert Flower
2009年 ドイツ・オーストラリア・フランス
監督:シェリー・ホーマン
出演:リヤ・ケベデ、サリー・ホーキンス、クレイグ・パーキンソン、ミーラ・サイアル、アンソニー・マッキー
オススメ度★☆☆☆☆(1/5)
実在のトップ・モデル、ワリス・デイリーの自伝の映画化。彼女はソマリア出身で、現在でも行われている「女子割礼」撲滅のために自伝を書いた。テーマは衝撃的で考えさせられるのだけど…。映画としてテーマを消化しきれていない。
あらすじ(ネタバレなし)
ダンサー志望のマリリンは、ロンドンで背の高い黒人女性と知り合う。女性・ワリスはソマリア人で、なぜかホームレス同然に暮らしていた。彼女の面倒をみるマリリン。
ある日、男と寝ていたマリリンを見て「女は純潔でないといけない」などと小言を言うワリス。そこからの会話で、ワリスが種族のしきたりで女性器を切除されていることを知るマリリン。
同時にワリスも「普通はそういうことをしない」ことを初めて知る。
ワリスは働いているレストランで有名なカメラマンにスカウトされる。最初は無視していたが、お金欲しさに、写真を撮らせることに。
やがて、ワリスはどんどんと世に出て、トップモデルになっていくのだが…。
==以下ネタバレ==
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ここがネタバレ!
途中、不法滞在とされ強制送還させられそうになるが、周りのフォローと偽装結婚で乗り切る。
回想シーンにより、ワリスの生い立ちから、ロンドンでホームレスになるまでの経緯がわかる。13歳で無理やり60歳のジジイの四番目の妻になれと言われて逃げ出したこと、親戚のおばさんを頼りながらロンドンまでたどり着いたこと。幼い頃の壮絶な体験が語られる。
友達や仲間が増え、成功の階段を上がっていきながらも、男性とのつきあいにも積極的になれず苦しむ。
モデルとしてテレビのインタビューを受けたワリスは、インタビュアーの質問の意図をあえてズラし、三歳の時の忌まわしい経験談を事細かに話しだす。そこから、その悪しき習慣を撲滅することを使命と感じ、まい進していくことになる。
つまりこういう映画(語りポイント)
現在でも多くの国で行われているという女子割礼の問題を語ると、そりゃ壮絶な話になる。おそらく誰もが怒りを覚え、感情が揺さぶられるのだけど、でも、そこと、映画としての評価やレビューは別物。
この映画も、FGMについての問題提起が目的であったのなら、それは成功と言えるのでしょう。ただ、物語として映画にしている以上、それが史実かどうかは二の次で、しっかりと映画として成立させて欲しかった。
彼女のサクセス・ストーリーなのか、トラジディなのか、観客がどこに感情を置いていいか中途半端。史実の傍観者でいろというなら、友達のマリリンに感情移入させつつ観るところでしょうから、いっそマリリン主観の物語にするとか。
訴えたいテーマの部分と、彼女のエピソードの部分が乖離している感があり、彼女が、それによって受けた精神的な弊害や物理的な影響まで、映画のエピソードとして描かなければ物語としては片手落ちになる。
「こんなにひどいんですよ」とセリフで聞くだけなら、なにも映画である必要はなく、講演会を聞いていればいいのだから。
全編、説明しすぎ。
セリフで説明しすぎで、セリフがなくても絵でも説明しすぎ。もう少し、ボヤかしようはあったと思うのです。
「見せずに」「語らずに」言いたいことを伝える術がいくらでもあることが映画の強みで、テクニックですから。
メタファーらしきものも特に見当たらず。例えば、彼女のさりげない行動で本人もきづいていない心の傷を描く、とか?やり方はあると思います。
トゥルーストーリーであることに拘ったのでしょうけど、彼女の自伝を基に、フィクションのオリジナル脚本を作ってくれたほうが良かったです。
それにしても、悪しき風習自体は、本当に心が痛みます。そんなものがこの世から無くなってくれることを心から祈りたいです。