基本データ・おススメ度
『Uターン』
原題:U Turn
1997年 アメリカ
原作:『Stray Dogs』ジョン・リドリー
監督:オリヴァー・ストーン
出演:ショーン・ペン、、ジェニファー・ロペス、ニック・ノルティ、ホアキン・フェニックス、ビリー・ボブ・ソーントン
おススメ度★★★★★(5/5)
社会派といわれるオリバー・ストーンの、良い具合に力の抜けた怪作。序盤で誰かが言う「みんな荒野が悪い。こんなところにいたらみんなおかしくなってしまう。」それは、監督の心のど真ん中にある「社会が悪い」「人間なんて…」という想いのメタファー。登場人物たちの壊れ具合と、気持ち良いくらい躊躇なく他人を裏切る感じが痛快!「THE人間」を描いた快作。ショーン・ペンが出ずっぱり。『ナチュラル・ボーン・キラーズ』系のオリバー・ストーン映画。
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◆目次
あらすじ(ネタバレなし)
マフィアにカネ絡みで追われているボビー(ショーン・ペン)の車が、アリゾナの田舎町・スペリアで故障した。修理に出したボビーは、常に砂煙が充満する荒野の街で時間をつぶす。
町で出会った美女・グレース(ジェニファー・ロペス)に、部屋のカーテンの修理を頼まれて自宅に行く。グレースの仕草を誘惑していると判断したボビーはキスをしようとするが拒否られる。「その気にさせやがって」と怒って出ていこうとするが、その時、グレースの夫ジェイク(ニック・ノルティ)が帰宅してきて、叩き出される。
しかし、夫のジェイクは、その後、町でボビーに「妻に保険金をかけている。妻を殺してくれないか」ともちかけらる。しかし「俺は人殺しはしない」と断るボビー。
ボビーは、たまたま立ち寄ったコンビニエンスが強盗に襲われ、巻き込まれる。店員が銃で犯人を撃ち殺し、店内にはボロボロになった紙幣が乱れ飛ぶ。店員に「俺はいなかったことにしてくれ」と口止め料を渡し、逃げるように店を出ていく。
車を修理に出している工場の工員・ダレルは、あきらかに変人で、余計なところまで勝手に修理をはじめ、車はバラバラにされていた。怒るボビーだったが「150ドル払わないと車は渡さない」というダレル。
レストランに入ると、若い女ジェニー(クレア・デインズ)に話しかけられるが、少し話をしただけで、すぐにキレる暴れ者トビー(ホアキン・フェニックス)に因縁をつけられる。
ふんだりけったりのボビー。彼の希望は「車を修理してこんな街から一刻も早く出ていくこと」ただそれだけだったのだが…。
==以下ネタバレ==
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ネタバレあらすじ
金がないと町を出ていけないと悟ったボビーは、ジェイクからの妻殺しを受けることにする。
荒野で絶好の殺害チャンスを得るが、崖でグレースに「どうするの?私を殺す?それとも抱く?」と言われ、抱くほうを選ぶ。アオカンするが、途中で「やっぱりストップ」といわれやめる。「からかうのもいい加減にしろ」と怒るボビーに、グレースは、ジェイクが母親の愛人だったこと、自分も幼いころからレイプされ続けた過去を話す。
そして「床の下に10万ドルを隠している。夫を殺しておカネを山分けしよう」と持ち掛けられる。ここでも「俺は人殺しはしない」と一旦は断る。
町に戻ったボギーは、また、トビーと彼女にトラブルに巻き込まれ、バスのチケット売り場で売り子を脅してまで手に入れたバスのチケットを破られる。そしてまた修理工とケンカをしたり、マフィアが「金を返せ」と追ってきたり、散々な目にあう。
「君を助けたい。夫を殺して一緒に逃げよう」とグレースに電話する。「おカネのため?私のため?」と聞くグレースに「もちろん君のためさ」と心にもないことを言う。
ジェイクの家に侵入したボビーは、すったもんだの末、ジェイクを殺す。床の下には大金があった。狂喜乱舞で、死体の横でセックスをするボビーとジェイク。
大金が手に入ったボビーは、修理工から車を取り返し、死体をトランクに積み、グレースと一緒に逃げようとする。
しかし、保安官に車を止められる。グレースは何の迷いもなく「この人がダンナを殺して私を誘拐したの」と嘘をつく。どうやらグレースと過去に関係のあった保安官は、嫉妬もあり二人に銃を向け言い争いに。保安官は「ジェイクはグレースの夫じゃない。実の父だ」という真実をボビーに聞こえるように言ったもんで、グレースが保安官を撃ち殺す。
荒野の崖で、死体を捨てた二人。と、グレースがボビーを突き落とし独りで逃げようとする。しかし、車のキーがないことに気付き、踵を返して「ボビー、大丈夫?」とボビーの元に戻る。
ひと芝居うったボビーは、キーを手に入れようと崖下に降りてきたグレースのクビを絞めて殺すが、同時に、保安官の銃を手にしたグレースに腹を撃たれる。
なんとか車にたどり着いたボビーがエンジンをかけようとすると、車は再び故障。
餌を求めて上空をとびまわるトンビの群れの下、四人の死体が転がっていた。
つまりこういう映画(語りポイント)
社会派と言われるオリバー・ストーンですが、たまに、ちょっと力を抜いたような怪作を撮ります。力を抜くといっても手を抜くという意味ではなく、むしろ、小難しい社会派映画から余計なものが省かれたメチャクチャ面白い映画を撮ってくれる、という意味。
「ナチュラル・ボーン・キラーズ」も好きですが、この映画は、個人的にはど真ん中に大好物です。ダメなひとはまったくダメだろうし、意味がわからないでしょうが。
ベトナム帰還兵であるオリバー・ストーンの死生観、人生観は、時折インサートされる「動物の死骸」や「蛇」「獲物を求めて旋回するトンビ」などのお馴染みの光景から見てとれる。
序盤で誰かが言う。「みんな荒野のせいだ。こんなところに居たらアタマがおかしくなっちまう。」ただひたすら「早く町から出たい」と願いながら、さまざまな出来事に行く手を阻まれ、その場に残るしか方法がなくなる主人公。ここでの「街」「荒野」は、ちっぽけな人間の力や想いではどうにもならない何か。世間、社会、自然、食物連鎖、弱肉強食、資本主義…等を現すメタファーです。
ただ金を求め、欲におぼれ、誰かを騙し、誰かを(いとも簡単に)裏切り、都合が悪くなったら、さらに次の嘘をつく。そんな人間の愚かな本質は、この映画の中、この町の中だけのものではない。僕らの周りと、なにひとつ変わらない普遍的な構図だ。
そこを、決して重くなくポップに痛快に描くなんて、最高ではないですか。
登場人物たちのフザケ具合が笑えるのですが、中でもホアキン・フェニックスの彼女のキャラ設定。ショーン・ペンにはまったくその気がないのに「私はこの人と生きていく」なんて意味不明な発言をする。それを聞いて彼氏が怒る…くだりはほとんどコント。当たり屋ですね、あれは。
クライマックスのジェニファー・ロペスの気持ち良いくらいの裏切り方。躊躇なく保身に走るくだりも良い。
まさに「THE 人間」なのですよ。出てくる人たちが。
オリバー・ストーンが言いたいことは「社会ってなんだ」「人間ってなんだ」に集約されるのでしょうが、個人的にはそこを「プラトーン」や「7月4日に生まれて」あたりで言われるよりは、この手の快作を通じて表現してくれたほうがよほど心に刺さってくる。そこは単純に好みの問題。
そんな中で、「とことん自分勝手な悪女」ジェニファー・ロペスに、彼女をそんな人間にしたのは「社会」だ。という設定が付加される。父からの虐待、母の死など、悲惨な過去があった、極めつけは夫と思われた男が実の父だったというヘビー設定。それによって、彼女が観客にとって「わかりやすい存在」になっていった。
但し、そのあたりは個人的には、説明設定を入れなくても良かったとも思います。脚本の中で描かれない登場人物の過去や人格形成の経緯を、脚本の裏設定を、しっかり考えて演技をするのは俳優の仕事であり、それを観客に伝えるのが監督の仕事だから。
ちなみに、この映画の説明として、大抵「不条理」と紹介されているようですが、自分が理解できない他人の行動をすべて「不条理」と言ってしまうのはどうかと思う。僕が見る限り、この映画の人物の行動で、意味不明なものはほとんどなかったように思う。傍から見てどれだけ意味不明であろうが、そこにはなにかしらの理由がある。それが人間の行動。そのあたりを感受するアンテナがないと、この映画は「中身のない不条理劇」にしか見えない。本当は中身がギューギューに詰まってるのですけどね。
オリバー・ストーンのメッセージは本来、非常にシンプルでわかりやすい。だからこそ、小難しいことは言わず、こんな映画をたくさん撮ってください。。