基本データ・おススメ度
『スイッチ・オフ』
原題:Into the Forest
2015年 カナダ
監督:パトリシア・ロゼマ
出演:エレン・ペイジ、エヴァン・レイチェル・ウッド、マックス・ミンゲラ、カラム・キース・レニー
おススメ度★★★☆☆(3/5)
おそらくわざと間違った宣伝がされている。「近未来SFサバイバル」と期待すると拍子抜けします。邦題のヒドさも相まって「つまらない」「意味不明」との意見多し。ただ、その意味不明さに意味がある、人生教訓的なテーマを詰め込んだ秀作。エレン・ペイジの天才女優ぶりを観るだけでも価値はあり(『JUNO』ほどではないですが)。観る人を選ぶので、声を大におススメはできないですが。
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目次
あらすじ(ネタバレなし)
ネル(エレン・ペイジ)とエバ(エヴァン・レイチェル・ウッド)姉妹は、父と三人で、森の中の家に住んでいた。大自然の中ではあるが、インターネットのさらなる発達で、不自由のない暮らしだった。
ネルは数日後のテストのためにWeb講義を受けている。エバはダンスのオーディションに向けネット配信の音楽に合わせ練習している。
と、突然、すべての電気が消える。
いつもは「電源オン」と言えば勝手に電気がつくシステムだけど、もちろん反応しない。停電の影響は三億人にも及ぶという大規模停電らしい。原因は不明。
備蓄品や、ふもとの町からの調達で、なんとか暮らす三人。
町では略奪が起きたり物騒な雰囲気になってきますが、まだ人々は楽観的で、若者は飲んで騒いだりもしている。
そんな時、森で木を切るためにチェーンソーを使っていた父が誤って自分の足を傷つけてしまう。かけつけた二人だが、出血がひどく、病院に搬送することも何もできないまま、父は死んでしまった。
残された姉妹二人。
==以下ネタバレ==
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ネタバレあらすじ
ダンスの練習が第一の姉・エバは、音楽がなくメトロノームしか使えないことに異常にいらだち、残り少ないガソリンを自家発電機に入れて音楽を流したいと言い出す。貴重なガソリンを音楽のために使うことに反対するネルに、エバは荒れる。
そこに、ネルの彼氏・イーライが訪ねてくる。自転車が壊れて三日歩き続けてやっと辿り着いたという。一時的にイーライとの三人暮らしになるが、ネルとイーライがセックスをすることや、家の食糧も三人分ずつ減っていくことに文句をエバは文句を言い出す。「妊娠だけはしないでね。」と皮肉も込めて。
イーライは「東海岸は復旧をはじめている。そっちへ行こう」と提案。実に8か月半も歩く必要があるらしいが、それでも行こうという。エバが反対して家に残る。
歩き出し、野宿をするネルとイーライだったが、姉のことが気になるネルは「やっぱり戻る」と、イーライと別れ家に戻る。
停電から半年。
森からの食糧調達も慣れてきた二人。ネルは生理が来てほっとしたことをエバに伝える。
ガソリンを自家発電機に使い、音楽をかけ、昔とった家族のホームビデオを観る二人。涙を流す。
森で、エバがレイプされる。男はネルたちの車を奪って逃げていった。交通手段も失う二人。エバはその一回のレイプで妊娠してしまった。しかし、エバは「産む」と言い張る。
エバのお腹の赤ちゃんのために、猟銃で狩りをし、豚を解体するネル。「赤ちゃんのために死んで。ごめん。」と謝りながら。
エバが出産する。生まれた赤ちゃんを泣いて抱きしめるエバ。「一生離さない」。ネルも感激して喜ぶ。
土砂崩れなどで家が壊れていく。カビが生え、廃虚のようになっていく自宅。エバが「赤ちゃんのためにこの環境は良くない」「家を焼こう」と提案する。ネルは「私たちの唯一の財産よ?」と反対するが、「私たちがいる。どこでも生きていける」とのエバの説得に納得し、家を燃やすことにする。
家族の写真や、大事なものだけをリュックにつめ、家に火をつける。
燃え盛る家から立ち去る三人。
つまりこういう映画(語りポイント)
近未来SFサバイバル映画…という触れ込みに期待をすると拍子抜けします。SFっぽい描写はほとんどなく、家族愛、人間のサガ、をテーマにしたメタファー劇です。
普通に考えたら意味不明だったり、イライラする登場人物の行動を、観る側が「これは何を言いたいのだろう」「何の比喩?」とアタマを使って考える必要がある。不親切といえば不親切。
人類の存亡にかかわる緊急事態なのに、ダンスの練習に音楽が欲しいからと、貴重な備蓄のガソリンを使おうと言い出す姉。…は「傍から見るとまったく価値のないこと(モノ)が、誰かにとっては生きるか死ぬかにかかわるくらい大事なことだったりする。」いうメッセージ。
「大事なもの」の価値観はさまざまであり、理解しあうことは不可能と思って良いのだけど、そこを理解できる(理解しようとする)のは、相手がどうあれ絶対的に味方であるという決意を持って接している人間、例えば家族、例えば親友。そんな人間の存在が本当に大事…という「人間同士の絆」が、この映画のメインテーマです。
「家まで燃やし、家族の写真や想い出だけを手に二人で旅に出る」ラストシーンもテーマを補完していて、人間同士の絆が「アナタさえ居れば他に何もいらない」まで昇華しているという表現。
映画前半では、ネルに対し「妊娠はしないでね」「旅に出るなんてありえない」と、自分の考えを曲げずに小言を言っていた姉ですが、自分が妊娠して子供を産んでから行動が真逆になる。「子供のため」がすべての価値観になり、すべてを捨てる。
そこには、「自分が同じ立場になって初めて他人を理解できる」という人間の能力の低さと、その時に「私が間違っていた。ごめん。」と言える素直な気持ち。さらには、自分の子供にすべてを捧げる「動物としての本能・覚悟」など、人生にとって大切な教訓が詰まっている。
なにもかも捨てて旅立つ二人の表情が晴れやかで良い。
それにしても、エレン・ペイジは良い。『JUNO』ほど「天才だ!」と感じる瞬間は少ないですが、それでも、演技の巧さは特筆もの。
姉の女優さん、エヴァン・レイチェル・ウッドも『レスラー』同様に「家族との接し方で苦悩するひと」をうまく演じていて、役にハマっている。レイプシーンの凄まじい表情。助けに来てスコップを手に怒り狂う時のエレン・ペイジの表情。拍手喝采しました。二人とも、凄まじい女優さんです。
▼「JUNOジュノ」こちら、めちゃくちゃ面白いです。