【映画で語ろう】カムシネマ★3分で語れるようになるポイント【ネタバレあらすじ】

映画を観たなら語りたい。映画の紹介から、ネタバレあらすじ、著者の独断と偏見による「語りポイント」まで。

3分で映画『パピヨン』(2017)を語れるようになるネタバレあらすじ

f:id:kyojikamui:20190706011051j:plain

基本データ・おススメ度

『パピヨン』

原題: Papillon

2017年 アメリカ・セルビア・モンテネグロ・マルタ

監督:マイケル・ノア―

出演:チャーリー・ハナム、ラミ・マレック、イブ・ヒューソン、ローラン・モラー

  おススメ度★★★☆☆(3/5)

 不朽の名作のリメイク。ほぼオリジナルのままの構成ながら、大切なポイントがいくつか抜け落ちている。スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンの偉大さを再認識しつつも、それ以前に作り手側の視点の問題です。ラミ”フレディ”マレックはかなり頑張ってますから。レビューでは「改悪点」とその理由を挙げていきます。そのうえで、旧作と両方を観てください。 

<広告>

 


 ※すいません、今回はあらすじ以上に書きたいことが多すぎて割愛。いきなりレビューに入ります。あらすじは旧「パピヨン」のレビューを参照ください。

==以下ネタバレ==

つまりこういう映画(語りポイント)

 旧作からの【改悪点】を挙げます。旧作を未見の人には意味わからないと思いますが、すべて説明つきで書くと長くなるので「旧作を見ている方向け」を前提として書きますね。
①最も大事なセリフがない。
 パピヨンが独房で夢を見る幻想シーンがあります。旧作では「俺は無実だ」と主張するパピヨンに対して刑務官が「お前の最も重い罪は『人生を無駄にしたこと』だ」と言います。それを聞いて納得したような顔をするマックイーン。このくだり、僕は映画のメイン・テーマだと捉えています。
 殺人に関しては確かにパピヨンは無罪です。でも、それ以前に、まっとうな暮らしに背を向け金庫破りを生業にして快楽に浸っていました。その結果として何者かにハメられ殺人の濡れぎぬを着せられた。事の根源は自分自身の行いにあるのです。殺人を犯したかどうかの問題ではない。自分が「決して無罪ではない」ことに気づいたパピヨンが自戒と懺悔のうえで「それでも自由を目指す」ところに、この映画の深さがある。
 代わりに金庫の幻想を見るシーンを入れていることから、シーンの重要性は認識していたのかも知れませんが、そこは、ハッキリとセリフで示して欲しかった。


②独房シーン
 映画の中で相当な比重を占める独房シーン。旧作では、ここでみるみると衰弱していくマックイーンの風貌が最大の見せ場。扉から顔を突き出して散髪してもらうシーンがありましたよね。独房に入って間もない時に、すっかり衰弱した隣の囚人に「顔色を見てくれ」と頼まれるパピヨンが、数年後には同じことを隣の囚人に聞く…というくだり。それもカット。あまりの苦しさにココナッツをくれた男がドガであることを白状しようとするが、意識が朦朧として本当に思い出せない。それを見た刑務官が「もう死ぬな」とつぶやく。そこもカット。
 二度目の刑期五年が終わったとき、パピヨンが独房の中で「普通に立ってる」んです。旧作では、当然の演技プランとして、マックイーンは倒れて動けない。なんとか独房を出た後、廊下でぶっ倒れるんです。その演出もなし


 重要な演出がことごとくカットな上に、とにかくチャーリー・ハナムの顔色が最後までめっちゃ良くて元気そうなのですよ。見た目の役作りだけの問題じゃなく、演技プランとして「ずっと元気。ずっと強気」なのがシラケる。真っ暗闇の独房で何年も過ごして、どうしてツルツルの肌でちょっと日焼けしてるのでしょうか。


 さらに、旧作では年数経過と共に刑務官もあきらかに歳をとっていくのですが、新作では全員がほとんど変わらないメイクで、二度の独房で合計十年くらい?の年数の重さが伝わってこない。画面もキレイ過ぎて、明るすぎて、とにかく、独房シーンに関しては「なにからなにまでダメ」という感想。


③ドガの設定変更が改悪
 旧作でのドガの「巻き込まれ感」が消えた。どういう意図がわかりませんが、新作ではそうかなり早いタイミングで、ドガも「脱獄したい派」になってしまうんです。控訴に失敗して頼りにしていた妻が弁護士と再婚した話も、あれは最後の悪魔島で話すからグッとくるわけで。あんな早いタイミングで入れても効果は薄い。

 映画の上映会での脱獄のくだりも、当初は逃げる気はなかったドガが、パピヨンを助けようとしたのがバレて、仕方なしに急遽脱獄チームに加わる設定がポイントで、だからこそ、悪魔島で再会した時にパピヨンの顔を見るなりドガは逃げだしたのです。「あんたとここで会いたくなかった」というセリフが重く、同時に「自分を巻き込んだパピヨンを恨んではいるが、それでも彼が脱獄に成功していることを願っていた」ことがわかる、ものすごく重要な設定でありセリフなのです。それがあるから、最後の「あんた、死ぬよ」というセリフからの抱擁が泣けるのです。最も感動するはずのラストのくだりがまったく感動できないのは、ドガの行動動機や気持ちの推移を大きく変更したから。
 これはもう、映画の元来の意図をぶち壊すほどの改悪に思えます。


④「蝶の入れ墨」にまったく触れない。
 旧作では、パピヨンたちが蝶を捕まえるシーンがある。自由を求める人間たちが、同じ生き物である蝶や昆虫を人間の利害のために捕まえている…という部分に、僕は人間の「おごり」を感じていて好きなシーンだったのですがカット。そして、胸の入れ墨をみせて「この蝶を運ぶにはいくらかかる?」と聞くシーンや、流れ着いた島で村長の胸に蝶の入れ墨を彫るシーン。両方カット。


 その他まだまだたくさんあります。シスターが「自分が考える正義」のみで行動して「あなたが無罪なら神が守ってくれます」とのたまって通報するとか、偽善、人間の愚かさ、を現わす良いシーンなのですが、そこもまったく設定変更。

 …キリがないのでこの辺で。


 ボロクソ書いてしまいましたが、この不朽の名作をリメイクしてくれた英断には拍手と感謝の意を表します。オリジナル版の良さと、スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンがいかに素晴らしいかを、若い人に理解してもらうチャンスでもあるからです。
 はい、ぜひオリジナル版「パピヨン」を見てください。