基本データ・おススメ度
『プリズン・エクスペリメント』
原題:The Stanford Prison Experiment
2015年 アメリカ
原作:フィリップ・ジンバルドー「ルシファー・エフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき」
監督:カイル・パトリック・アルバレス
出演:ビリー・クラダップ、マイケル・アンガラノ、エズラ・ミラー
おススメ度★★☆☆☆(2/5)
悪名高き「スタンフォード監獄実験」の映画化。ほぼ史実に忠実に作られているようで映画オリジナルな脚色がないため、物語として楽しむのは難しい。あくまで再現ドラマ。とはいえ、そもそもまるで映画のような出来事だけにドラマ性も充分ですが、ただ、決して楽しめる内容ではないということ。心理学として、その社会的問題を考える題材として、興味のある人にはおススメ。
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◆目次
あらすじ
実際のスタンフォード監獄実験の流れそのままですので…特にあらすじを記載する意味は薄い。まだ知らない方はこちらを。
つまりこういう映画(語りポイント)
原題はそのまま「スタンフォード監獄実験」。忠実な再現ドラマであるため、この映画について語るのは、史実である実験について語るのと同じこと。
『人間の行動は、性格(温和、攻撃的、優柔不断…等)ではなく、状況によって決まる。』を証明した実験。「ミルグラム実験」と並んで、史上最も悪質な人体実験だったと言われています。
ドキュメント番組で実際の実験映像を観たことがありますが、この映画の製作スタンスとして、極力、本物の記録映像に近く、徹底した「再現」を目指していることがわかります。
大学の地下に作られた模擬監獄も実際の映像とほぼ同じ作りだし、学生役のキャスティングも。最も性格の悪い看守役の学生の風貌など、本人?と思うくらい似た俳優を使っている。他の学生たちのキャラクターバランスも、東洋系の人も実際にいたりと再現性に拘っている。ジンバルドー博士の風貌もそっくりですしね。
個人的な経験で言うなら「状況論」は間違いなくあります。まったくその通りな現象を何度も目のあたりにしていますし、自分自身でもなんとなく覚えがある。立場が変わることにより、お金や権力を手に入れることにより、人間は、言葉づかいから態度、行動までガラっと変わってしまう、ということですね。
与えられた状況に沿うように、人間は行動する。
そこはもう「そういうもの」だとして、僕らは「戒め」として念頭に置くべきこと。『たとえどんな状況でも、自分は自分でいよう』。強くそう思っていないと、誰もが簡単に陥る罠。
近年、この実験に酷似した事件がありました。
アブグレイブ刑務所、捕虜虐待事件
アブグレイブ刑務所における捕虜虐待は2004年にアブグレイブ刑務所で発覚したイラク戦争における大規模な虐待事件である。米国国防省は、17人の軍人及び職員を解任した。2004年5月から2005年9月までの間に、7人の軍人が軍法会議で有罪となった。(wikipediaより)
当時のブッシュ大統領やアメリカ政府は、この虐待への指示、関与を否定しましたが、実は、スタンフォード監獄実験で証明された状況論に基づき「指示なき指示」をしたのではないか、との指摘がある。つまり「職員が自動的に捕虜を虐待するように仕向けた。」そんな状況を意図的に作ったのではないか?という疑惑。
結果、実際に手を下した職員たちが裁判にかけられ多くは有罪となった。有罪となった職員の中には「上に指示されたのと同じことだ」と主張している人もいるらしい。
このケースは「ミルグラム実験」のほうに近いですね。『人間は、権力のある人からの指示で、かつ、その結果責任を負わないで良いことを保障された状況では、どんな残虐なこともできてしまう』を証明した実験。
状況が悪を作る。
悪魔はささやきかけるだけ。実際に手を下すのは状況により悪魔化した人間。
だとしたら、僕らが普段認識している「人格」「性格」って、そもそもなんなんだ?ということになる。いざとなったら意味をなさない人格…に何の意味があるのか?ということ。
人間ってなんだ?人格ってんだ?
恐ろしい話ではあるが、僕らひとりひとりが考えるに値する「面白い」話でもある。