基本データ・おススメ度
『オオカミは嘘をつく』
原題:Big Bad Wolves
2013年 イスラエル
監督:アハロン・ケシャレス、ナヴォット・パプシャド
出演:リオル・アシュケナージ、ツァヒ・グラッド、ロテム・ケイナン、
ドヴ・グリックマン、メナシェ・ノイ
おススメ度★★☆☆☆(2/5)
「タランティーノが絶賛!」というコピーはきっと大嘘でしょうけど、登場人物少なく、ほぼ密室劇で進行する会話劇や、ちょっとふざけたセンスは嫌いじゃない。いろいろ足りない映画ですが、ミス・リードで観客を騙そうという試みは好感が持てます。残虐描写多いので苦手な人は避けたほうが無難。そこ平気な人なら、それなりに面白い。
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◆目次
あらすじ(ネタバレなし)
冒頭、廃墟でオニごっこをしている子供3人。内、ひとりの少女が赤いシューズの片方だけを残して姿を消してしまう。少女誘拐事件。
刑事数人が、容疑者である教師ドロールを捕まえ、暴力をふるいながら自白を迫るがドロールは頑なに否認する。証拠不十分で教師は自宅に帰されたが、その様子は一般人に目撃され、警察の非人道的な捜査として世間からパッシングを受ける。刑事のミッキは責任を問われ、交通課への異動を言い渡された。
そんな折、犯人からの連絡で、無残に殺された少女の遺体が発見される。強引な捜査をした警察への当てつけに見えた。
椅子に座らされ、下着を膝までずりさげられた遺体には頭部がなかった。現場には被害者少女の父親ギディが来ており、錯乱した様子で捜査にあたった刑事を睨み付けている。
容疑者ドロールにも娘がいた。娘の誕生日をケーキで祝う姿。釈放されてから、普通にゴミ出しをしたり、平常な生活に戻っていた。
父親ギディは郊外に引っ越しをした。地下室のある一軒家だった。父親は不動産の担当者に、地下室で大声を出しても外には聞こえないことを確認させた。
ドロールが犯人だと信じて疑わない刑事・ミッキは、独自に動き、森で脅しながら自白を強要する。が、そこに現れた父親ギディにスコップで殴られ気絶してしまう。父親は、さらにドロールも殴りつけ、二人を自宅に運んだ。
地下室は、容疑者ドロールと刑事ミッキを拉致監禁するためだった。
==以下ネタバレ==
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ネタバレあらすじ
父親は、娘が殺されたのは、ミッキの強引な捜査にも原因があると考えており、ミッキに「お前にも責任がある。共犯者になれ」と言う。
目的は、ドロールから娘の頭部の隠し場所を聞き出すこと。
犯人の手口は、被害者少女に鎮静剤入りのお菓子を食べさせ、眠ったところをレイプし、指を1本ずつ折り足の爪を剥がし、最後に頭部を切断する流れだった。完全なる猟奇殺人。
父親は「赤ずきん」等のオオカミの童話になぞって「これからお前にも
同じことをしてやる」と宣言し、ソファに縛りつけたドロールの手に、かなづちを振り下ろし指の骨を折る。足の爪を剥がそうとする。
最初は一緒にドロールに自白を迫っていた刑事ミッキだったが、あまりの凄惨さに「やり過ぎだ」と言ったことで父親の怒りを買い、殴られ、ドロール同様に、柱に縛り付けられてしまう。
一階に上がり、鎮静剤入りのケーキを作る父親。そこに、ギディの父・ヨラムがやってくる。殺された少女の祖父だ。祖父は、事件のショックで父親が郊外に引っ越してしまったと心配して様子を見に来た。
「ここらはアラブ人がたくさん住んでいる危険な地区だぞ。」と言う。
父親が祖父と話している間、地下で、ミッキはドロールに「頭部を埋めた場所を言うんだ。嘘でいい。時間を稼ぐんだ」と提案する。
地下室に降りてきた祖父は、息子が2人の男を拷問している光景を見て驚き、やめるように進言するが、父親は聞かない。
一度は息子を説得しようとした祖父。「娘を学校に迎えに行く約束を忘れ、他の女と浮気をしていた、女にフェラチオされているときに娘がさらわれた。俺の責任だ。」という父親。心情を察した祖父は、あろうことか拷問に参加する。
それも、父親以上に凄惨な方法を提案。バーナーでドロールの胸を焼いて自白を迫る。もはや猟奇殺人犯のように、その行為にエクスタシーを感じているような父親と祖父。ドロールは嘘の場所を自白する。車で出かける父親。祖父が残るが、そうとは知らずに鎮静剤入りのケーキを食べてしまい気を失う。
その隙に縄を解いた刑事ミッキは、ドロールを置いてひとりで逃げ出す。道で、馬に乗ったアラブ人に会い、思わずハンズアップする。それを見たアラブ人は「アラブ人はみんな狂暴だと思ってるのか?」と呆れる。携帯電話を貸りて警察署に電話するミッキ。
電話に出たのはミッキの妻だった。「あなた、なにしてるの?シャニ(娘)をバレエ教室に迎えに行ってとお願いしたじゃない。」娘・シャニが行方不明になっていた。事態を呑み込んだミッキは、今、逃げてきた道を急いで引き返す。
父親の地下室に戻ったときには、すでにドロールは祖父の手により首をかっきられていた。「娘はどこだ?言ってくれ!」と迫るが、ドロールはニヤリと笑ったまま息を引き取る。
ドロールの部屋。他の刑事が室内を捜索をしている。何もみつからず引き揚げていくが、カメラ(観客)には隠し部屋が見える。バレエのユニフォームを着たミッキの娘・シャニがベッドに倒れている。
つまりこういう映画(語りポイント)
観る人の好みによって随分と評価が分かれる。
好みじゃない人は「なんじゃこりゃ?」「なにが言いたいの?」でしょうし、好みな人なら「なかなか面白い!」となる。個人的には後者です。惜しい部分も多いですが。
テーマは「善と悪」「既成概念」「思い込み、錯覚」そして「人間の愚かさ」というところ。
ロリコン趣味でいかにも犯人に見える教師。一見善良なオジサン二人。ロリコン教師が無実の罪(に見える設定)で拷問され、善良そうなオヤジたちが猟奇殺人の曲がった悦びに目覚める…と云う、善悪の逆転や、人間の思い込みの怖さを描きながら、最後にどんでん返しで引っくり返しておこう。…というのが、この映画の狙い。それ以上でも以下でもない。
原題「Big Bad Wolves」は、劇中でも語られるように、童話に出てくる悪いオオカミのイメージ。この映画もまた、ある種の寓話として捉えるべきで、そこで「ドロールを犯人だと思った理由が描かれない」ことや「行動の動機が理解できない」部分は、寛大にスルーすべき。
このテの映画に常識を求めてはいけない。
父親がケーキを作るシーンが思い切りポップで明るいとか、善良そうな祖父が一番残虐だったとか、シュールな笑いと、ふざけたセンスをじんわりと楽しむ映画。
二度出てくる「馬に乗ったアラブ人」も好きだ。いかにもなにか起こしそうで、結局、ただi-phoneを貸してくれただけの善良な人だというセンスは嫌いじゃない。
彼の「アラブ人はみんな狂暴だと思ってるのかい?」というセリフが、この映画をわかりやすく説明してくれている。
ただ、物凄く惜しいシーンがひとつある。
映像とセリフで騙すミス・リードがいくつか仕掛けてある。ミスリードで観客を騙そうという姿勢は好感が持てるのですが「観客にどう思わせるか」の狙いが中途半端なために効果が出ていない。中途半端どころか、娘との誕生日ケーキのシーンに至っては、真逆!あれは絶対に逆が正解だと思います。
バレエ姿の娘と誕生祝いのケーキを食べるシーンですね。「私にも娘がいる」というセリフによって、ドロールの娘に見せかけつつ、最終的には、あれは刑事の娘だったんか~い!な狙い。それなのに、あきらかに「ドロールは誘拐犯で、娘は被害者」に見えるように撮っているのです。いかにも気持ち悪い笑いを浮かべてましたよね?僕も、初見で、あれは被害者少女だと思いました。ドロールの娘には見えませんでした。でも、あそこはドロールの娘に見えるように撮るべきです。
想像するに「実は、あれはドロールの娘だった」=「犯人だと思って見たら悪い人に見える。人間の思い込みって怖いよね~」という狙いだと見せかけて、「やっぱり犯人やったんよ~」と引っくり返す。…という、非常にややこしい狙い方をしたのだと思います。
でも、全体の流れは「ドロールは無実」に見せたいわけですよね。なら、あそこはもっと明るく幸せそうに撮って「誰が見てもドロールと娘の幸せな団らん」でなきゃいけない。それが「実はあの娘は、誘拐した刑事の娘だったんだ~」で、がび~ん!なわけですから。
あのケーキのシーンの演出によって、いかにも怪しそうな奴がやはり犯人だったってだけの映画になっちゃいました。それ以外は、必死に冤罪を訴える演技で、ラストのどんでん返しに向かおうとしているだけに、惜しい。
あと、邦題でネタバレさせちゃいけない。「オオカミは嘘をつく」って、嘘だって言っちゃってますから。語呂だけで決めたのでしょうね、邦題。