基本データ・おススメ度
『メッセージ』
原題:Arrival
2016年 アメリカ
原作:「あなたの人生の物語」テッド・チャン
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー、マイケル・スタールバーグ
おススメ度★★★★★(5/5)
ドゥニ・ヴィルヌーヴが「ブレードランナー2049」の前に撮った傑作。非常に難解な設定で、まぁ語りがいのある映画ですが、テーマ自体はシンプル。すべてが「愛」「相互理解」「迷いなく生きろ」というテーマに向けての壮大なメタファーになっている…と解釈しています。未見の方は、ぜひぜひ、話のネタに観てください。物凄い映画です。
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◆目次
あらすじ(ネタバレなし)
言語学の教授であるルイーズが、いつものように大学の講義を始めるが、学生たちの携帯端末が騒がしい。最初は注意していたが、どうやらそは、世界に尋常じゃない事態が起こっている緊急警報だとわかる。
まるでバカウケのような宇宙船?が全12隻、世界各地に出現した。
宇宙船の目的は不明のまま、時間が経過する。勝手に焦った人類たちは、非常事態宣言を発令したり、国境が封鎖されたり、警官の残業制限が解除されたり、銃の新規販売が中止されたり、静かに、徐々にパニックに陥っていく。
軍のウェバー大佐がルイーズを訪ねてきた。言語学者であるルイーズに、宇宙船との会話を託しにきた。現地に向かう途中、同じく学者のイアンを紹介される。以降、二人で協力して「宇宙船の目的」を探る作業にあたる。
念のためにと、ワクチンや防護服を用意された二人。宇宙船は、なぜか18時間ごとに下部の扉が開く。そこから船内に入るルイーズたち。
船内、透明な壁で仕切られた向こう側に、タコのような風貌をした異星人(と思われる存在)が2体いたが、そもそも、彼らに言語というものがあるのか、質問をしても、質問されているという意図が伝わるのか、なにもかもわからない中、ルイーズとイアンは意思の疎通を試みる。
後日、ルイーズがボードに「HUMAN(人間)」と書いて提示すると、彼らは、イカ墨のようなものを吐き、透明な壁に暗号のような文字を書いた。ルイーズは、彼らが会話に応じようとしていることを悟る。
イライラしたウェバー大佐に、ルイーズは「オーストラリアに上陸したスコットランド人がカンガルーを見て『あれは何?』と聞くと、現地の人が「カンガルー」と答えた。以後、カンガルーと呼ばれるようになったが、カンガルーとは、本当は『わからない』という意味だった。」というエピソードを話す。
慎重に事を進めようとするルイーズだったが、人類はしびれを切らし、特に中国は、攻撃開始一歩手前の状況にあった。中国の指導者は世界に大きな影響を持っていて、中国が動けば、少なくとも4つの国が無条件に追随するという。
果たして、宇宙船の目的はなんなのか?
==以下ネタバレ==
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ネタバレあらすじ
彼らの前で、ルイーズが保護服を脱ぎ始めた。動揺するスタッフを尻目に、透明な壁に近づく。彼らも手を壁につける。イアンも防護服を脱いだ。友好的な意思が伝わったらしい。
彼らは、便宜上「アボットとコステロ」と名づけられた。
娘を出産する夢をみるルイーズ(実は夢ではなく「未来の記憶」だと後になってわかる)。
彼らの総称は「ヘプタポッド」とされた。
ルイーズが、彼らの示す文字を徐々に解読していく。それは「表意文字」であるとわかる。そこに「時系列がない」ことも。彼らには、過去や未来という「時間の概念」がない。彼らにとって、現在も過去も、3000年後も同じ。
彼らの文字を解読するのに、時間を要した。その間に、彼らのタコのような風貌が画像として流出。それを見た人類が動揺する。「地球を侵略しにきたに違いない」「攻撃すべきだ」との声もあがる。
ルイーズの夢の中では、娘との暮らしが進行していた。夫とはすでに別れている。但し、現実のルイーズはまだ独身だ。
「言語によって思考が左右される説」をイアンが話す。中国では、麻雀牌を使って会話を試みているという。
「目的は?」の質問に対して、彼らは「武器」と答えた。その返答に危機感を覚える人類。「やはり侵略だ」というわけだ。「まだわからない。言葉の意味が違うのかも。武器=道具という意味かも。」と言うルイーズだったが、各国は回線を切り、情報の共有をやめはじめる。そして、中国は「48時間以内に退去しなければ攻撃する」と宣言してしまう。
ルイーズは、さらに壁に近づき、会話を試みる。すると、ルイーズの脳内には、このところ見る夢がさらに現実身を帯びて出てきた。
と、彼らは突然、衝撃を加え、ルイーズとイアンを吹き飛ばした。
次の瞬間、爆破が起こった。時限爆弾が仕掛けられていたからで、彼らは、爆破からルイーズたちを助けるために、その場から吹き飛ばしたのだった。
それを機に、宇宙船は高度を高め、上空800mの位置に移動。
ついに中国が核攻撃を決断。他の国も追随する構え。ルイーズたちは必死にそれを阻止しようと、さらに解読を進める。
夢の中、十代に成長した娘が、ルイーズに「両者ともに負けではない、という言葉、なにかない?」と聞きます。ルイーズは「ウインウイン?」と答えますが、娘は「ちょっと違う」と言う。
イアンが、彼らからのメッセージが「12分の1」であることに気付く。「12箇所で合わせて解読しろという意味」だ。
イアンがたまたま言った「ノン・ゼロサムゲーム」。夢の中で娘が聞いた答えだった。
宇宙船は、ポッドを降ろして上空の位置までルイーズを迎えた。中にはコステロがいて「アボットは?」と聞くと「死に向かっている」と答えた。そして、「君は武器を持っている」と言われる。
彼らのいう武器とは「言語」のことだった。
彼らは、人類を救うために、ある言語を教えにきたのだ。3000年後に、自分たちが人類に救ってもらう必要があるのだと言う。
ルイーズは、ずっと見ていた夢が「未来の記憶」であると確信する。
娘がやがて難病で若くして死んでしまうことも、その前に夫が去っていくことも、娘がハンナという名前であることも「想い出」としてルイーズの中にあった。
ルイーズ『ヘプタポッドの言語』という著書を未来に出版、最初のページには「ハンナに捧ぐ」と書かれていた。ルイーズは、未来に自分が書いた言語の本を脳内で読み、さらに読解力をつける。
一年ほど後のこと、ルイーズはパーティーで中国の指導者シャンに「君に感謝する。私を、世界を救ってくれた」と言われる。なんの話かわからないというルイーズに、シャンは「あの時、私の携帯に電話をくれたじゃないか。そして、妻の最期の言葉を私に言った。」シャンは、それによって、核攻撃の中止を命じたのだった。シャンは、ルイーズに携帯番号を教える。
ルイーズは一年後の記憶を頼りに、シャンに電話をかける。その後ろには軍が銃を構えて追ってきている。何者かが、内部から中国に国際電話をかけていることを察して、止めに来たのだ。
イアンが時間を稼ぐ間、ルイーズは、シャンに、一年後のシャンから聞いた妻の言葉を話す。それを聞いたシャンは、全世界に緊急放送をし、核攻撃の中止を宣言した。
宇宙船が去っていった。
未来の記憶に登場するルイーズの夫は、イアンだった。
ルイーズはイアンに「未来の人生が見えたら、どうやって生きる?」と聞く。イアンは「素直な気持ちを、もっと伝えるようになるだろう」と答え、ルイーズにプロポーズをする。
「一番の出会いは彼らはなく、君だった。」「子供を作ろう」と言う。
すべての運命を受け入れ、未来を受け入れたうえで、ルイーズは「未来の記憶」をなぞる決意をした。
つまりこういう映画(語りポイント)
まぁ語りがいのある映画です。すでにネット上では多くの人が解釈を繰り広げていますが、語りポイント大きく分けて二つ。
ひとつは「使用する言語によって概念が変わる」ということ。すでに実証されてもいるようで、検索すればいろいろ出てきます。めちゃくちゃ面白い話なので、興味のある方は検索してください。ここでは割愛します。
もうひとつは「時間の概念がなくなったらどうなるか」「未来の記憶をもって、果たしてどうやって生きていけばいいのか」という点ですが、それも、過去のSF映画にあったようなパラレルワールドとも違うだろうし、「過去も未来も現在も同列に存在する」の意味を説明できない。概念がまったく変わるわけなので、それがどういう状態かを語れる言語さえ、僕らは持ち合わせていないのかも知れない。
そんなこんな難解な問題を考えるのも面白いですが、そこは、自分なりに理解できる範囲で止めていいと思います。止めなくてもきっと理解できないので。
映画の読み方のコツは、極力すべてをメタファー(比喩)と捉え「つまり、なにが言いたいか(テーマ)」を汲み取ること。設定やストーリーは二の次で良い。演劇などの不条理劇を見慣れている人には、慣れた作業だと思いますが。
いやはや、この映画ほど「全編がメタファー」になっている映画も珍しい。この映画の「言いたいこと」は最終的にはシンプル。
以下、僕の解釈なので、間違っていたらごめんなさいですが…、
「共通理解が大事」だということと「迷いなく生きろ」ということ。
言語によって概念が変わるならば、日本語、英語、中国語…多くの言語を介して生きている僕らが「理解しあえない」のは当然ということになる。そこで、平和にとって、本当に必要なのは「共通言語」であり「相互理解」「協力」であるというメッセージ。
異星人が、人類を救うために「共通言語を使え」とアドバイスをしてくれたわけです。そうすることで、未来に起こるであろう核戦争も避けられるのかも知れない。
劇中、世界12か所に散りばめられた宇宙船それぞれにメッセージがあり、読解するにはすべてを結集させる必要がある…という設定からもわかりますね。
未来の記憶を持って生きる…のは、
これから生まれる娘が10代で死んでしまうことも、その前に夫が去ることも、わかっていながら、記憶をなぞって結婚し子供を産むのか?いう選択。普通に考えたら「なんとか違う方向に回避したい」となるところ、ただ、それをすると、娘・ハンナがこの世に生を受けないということになる。娘・ハンナとの短いけど楽しい日々が「想い出として」記憶にある以上、彼女にとってハンナを世に送り出すのは「使命」なのでしょう。娘の人生を奪う権利は彼女にはない。
「愛とは自己犠牲である」という着地でもあり…
たとえ結末がわかっていても、それが哀しい結末であっても、それが運命であれば受け入れて、与えられた時間を精一杯生きる…それが正しい選択に思える。
正確には、選択の余地はない。過去の記憶の未来の記憶も、どちらも「すでに起こったこと」だから。過去を変えようがないのと同様に未来も変えることはできない。…が、この映画内の概念なのだけど。いずれにしろ…、
きっと「とても幸せな状態」だと思うのです。異星人が「救われるために」そうなれと進言した意味もわかる気がするのです。
なぜなら、未来がわかっていれば「迷い」がないから。
迷いが人を不安にさせる。
迷いがあるから恐れが芽生え、争いが始まる。
人間にとって一番幸せなのは「迷いなく生きること」に他ならない。
幸せになるには、救われるには「相互理解と協調」「他人を愛し」「迷いなく真っすぐに生きろ」それが、この映画の「言いたい事」
難解なSF設定も、そこに着地するための壮大なメタファーに過ぎない、そう解釈しています。
物凄い映画を観た…きっとそう思える傑作。