基本データ・おススメ度
『マッド・マザー 生贄の少年』
『ユージュアル・ネイバー』
原題:The Harvest
2013年 アメリカ
監督:ジョン・マクノートン
出演:ナターシャ・カリス、サマンサ・モートン、マイケル・シャノン、ピーター・フォンダ、チャーリー・ターハン
おススメ度★★★★☆(4/5)
少年と少女の恋愛・友情物語が映画の題材として鉄板なのは、純粋な彼らを通じて、逆説的に「大人」が描かれるから。中盤のサプライズからまさかの恐ろしい展開になりますが、ラストはやっぱり感動へと。「生まれてきた意味」「生きる意味」シリアスなテーマと共に、思春期の少女と大人たち、それぞれの世代特有の「想い」もしっかり描かれた、邦題にそぐわない秀作。ラストカットは身震いがするほどに感動!泣きました。
(追記)wowow放送時『マッド・マザー 生贄の少年』だった邦題が、dvd発売時に『ユージュアル・ネイバー』に変更された模様です。
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◆目次
あらすじ(ネタバレなし)
冒頭、少年野球の試合。ピッチャーだった黒人の男の子が打球を胸に受けて倒れ、病院に運ばれている。緊急手術。心配そうに待合室で待つ母親。子供が助かったことを告げに来る医師はアンディの母。.
部屋の中、車椅子に座った少年アンデは幼い頃から病弱で寝たきり。看護する母親は医師で、仕事が忙しく、アンディを見る目線は少し冷たい。かたや父親は優しく接する。
両親を失くした少女マリアンが、祖父母と一緒にこの田舎町に越してきた。自宅近辺を散策するマリアン。室内を覗くと、寝たきりのアンディと目があう。
アンディの父親は、外で人に会い息子のために違法な薬も仕入れてくる。イライラしがちな母親との仲もやや険悪になっている、外にでたがるアンディだが、母親は許可しない。家の中でテレビゲームで遊ぶことと、窓の外で育つ植物を観るのがアンディの楽しみだ。
寝ているアンディの部屋の窓からマリアンが顔を出す。「近くに住んでるの?」「そう。」部屋に入るマリアン。「来たばかりなの、初めての友達」というマリアンに「僕も、初めての友達」と言う。2人がテレビゲームをしているところに母親がやってくる。「なにしてるの?帰りなさい」と優しく追い返すが、その後、父親に「ちゃんと見ていてよ。」と文句を言う母。
翌日、またアンディのところへ行くマリアンだが「窓から入ったらママに怒られる」というアンディ。マリアンは玄関の呼び鈴を鳴らし、出てきた父親に「アンディと遊べる?」と聞く。一度は拒否する父親だが「少しなら」と許し、マリアンを招き入れる。野球のテレビゲームをして遊ぶ2人にお菓子を運んでくる父親。
また次の日、今度は玄関に母親が出てきて、マリアンは追い返される。仕方なく窓のほうからアンディに話しかけるが、母親にみつかり、窓のブラインドを閉められてしまう。
暗い部屋で泣いているアンディ。窓を開けると、マリアンが作った案山子が立っていた(植物を荒らす鳥対策のため)。
マリアンの祖父母に会いにいったアンディの母親は「おたくの娘は精神不安定。アンディに会いにくるなと行っても来る。」と訴えるが、祖父は「新しい土地に来て友達は必要だ。」と言う。
「マリアンと遊びたい」と訴えるアンディに「彼女の両親と話した。(彼女は)病原菌よ。」と説明する。マリアンの家でも、祖母が「アンディ君は重い病気なの。友達なら学校で見つかる。」と言われる。双方の親に、会うなと言われる二人は悲しむ。
母親は、どうしてアンディとマリアンが会うことを許さないのか?そこには恐ろしい秘密があった…。
==以下ネタバレ==
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ネタバレあらすじ
幼い頃のアンディとの写真を見ている父親。「肝機能に問題が出てるわ」とアンディの病状を心配する父と母。「薬のせいだ。」「いや、薬は続ける。」と意見が分かれる。
家の倉庫から、古い野球のグラブとボールをみつけ持ち出すマリアン。野球をやりたがっているアンディのためだ。両親の留守を見計らって車椅子を押してアンディを外に連れ出す。生まれて初めてキャッチボールをするアンディ。そこに母親が帰ってきた。慌ててアンディを部屋に戻すが、マリアンは間に合わず、家の中に隠れる。
隠れた場所は地下室に続く階段だった。恐る恐る降りていったマリアンは、地下室に寝ている「もうひとりのアンディ」を発見する。そこに父親と母親がやってきて会話をしているのを、隠れて見ているマリアン。二人が上がっていった後、さらに周辺を確認すると、2人分のレントゲン写真が。ひとつは「アンディ」と書いてあり、もうひとつは、見知らぬ男の子の名前だった。出口をみつけて逃げ出すマリアン。
部屋にマリアンが来たことを悟った母親はぶちきれ、アンディを厳しく叱る。止めに入った父親に「あんたはずっと酒びたりじゃないの!」と文句を言うが、父親は「ずっと看病している」と冷静に返す。父親には、外でキャッチボールをしたことを正直に話すアンディ。理解を示す父親。
マリアンはインターネットで、地下室でみた男の子の名前を検索する。「病院から姿を消した新生児。いまだに行方不明」と書かれた新聞記事。
庭で、マリアンたちが忘れていった野球のボールを発見した母親はぶちきれ、アンディの部屋のおもちゃを全部捨てたり、野球ボールをテレビ画面に投げつけたり、アンディが楽しみにしている外の植物をぶった切ったり、暴れまくる。怖がるアンディ。
マリアンは祖父に「あの母親は狂ってる」と話すが、信用してもらえない。
若い女と浮気をする母親。女はいつも薬を調達してくれる女性。妻と別れて一緒になってほしいと言う女だが「僕たちは息子のために生きている」という父親。
父親が帰宅すると母親は狂ったように部屋の壁を塗り替えていた。「あの子は私に嘘をついたのよ!」と叫ぶが、その狂気を見て「アンディは間違っていない。」となだめる父親は、静かに「サンドラと寝た」と告白し「もう限界だ、僕には無理だ。」と嘆く。その姿を見て、我に返ったように「私はモンスターじゃない。あなたと私とアンディで家族よ」と言う。
このままだと余命一か月の(本当の)アンディ。地下室で手術を始める夫婦。翌朝、さらに弱った様子で寝ているアンディ。「緊急だったんだ。盲腸だ。ママが治してくれた」と説明する父親。
実際には、健康なアンディの臓器を、少しずつ地下の男の子(本当のアンディ)に移植しているのだ。最後には心臓を移植され、アンディはこの世から消えてしまうだろう。
地下室の窓の鍵が開いていることに気づき、マリアンが地下室に入っていたことを悟る母親。
隙を見てアンディの寝室に入ったマリアンは「地下に子供がいる。あの子も病気。」と言うと、アンディは地下の子の存在を知っていたようで「僕の兄弟なんだ。」と言うが「違うわ。これを見て。」と新生児誘拐事件の記事を見せる。
帰宅したマリアンは、祖母に「学校から連絡があった。しばらくは外出禁止」と言い渡される。
アンディが母親に「どうして二人目を産まなかったの?僕が病気だから?」と聞くと、母親は「私たちの子はひとり。神様がそう決めた。」と言う。
這って地下室に行くアンディ。寝ている子供の脇に座り「君の名は?いつからここにいるの?」と話しかけるが。子供は目を覚まさない。そこに父親がやってくる。「パパ、まぜ僕を騙したの?どして隠してたの?」と聞くアンディに「この子は死にかけている。この子は存在しないんだ。『お前にとって』この子は存在しないんだ。」と意味深な事を言う。
「お願い、パパ。本当のことを言って。」と泣くアンディ。そこに母親が来る。母親に「その子は誰?」と聞くと、母親は「私の息子よ。」「じゃ、僕は誰?」。
マリアン。祖父に「心臓を移植するつもりよ。どうして信じてくれないの。」と訴えると、祖父は冷静に「私にもつきあいを禁止された友達がいた。でも会ってたよ。心を信じなさい。自分の心を。」と話す。
マリアンは祖父の言葉に勇気づけられ、アンディの元へ走る。窓を叩くマリアンに助けを求めるアンディ。すでに息も絶え絶え。
部屋に入ったマリアンに「僕はアンディじゃない。あの子がアンディだ。」と話すアンディ。「あなたが誘拐された方?とにかく逃げよう。
地下室では、父親が良心の呵責に耐え兼ね「あの子を死なせたくない」と言うが、母親は「あの子は死ぬわけじゃない。私たちの息子を助けてくれるの。」と言う。息子の容態が急変した、すぐに心臓手術が必要だ。
アンディの部屋に行く父親。部屋にいたマリアンを横目にアンディに優しい言葉をかけると、自分に覚せい剤を打とうとする。「これをやると力が出るんだ」と。どうやら今までも、自分たちのやっていることの恐怖から逃れるために、薬に頼っていたらしい。必死に止めるマリアン。
と、父親は自分ではなくアンディに覚せい剤を打ち「これで少し元気になる」と言うと、母親が釘を打ち付けて閉ざしていた窓をぶちやぶり、マリアンとアンディを逃がす。
錯乱する母親を抱きしめ「息子はずっと前に死んでいる。もう解放してやろう。」と言う父親。しかし、母親は父親の首筋に睡眠系の注射を打ち込むと、外に飛び出しマリアンたちを追う。
川岸に倒れている二人を発見し追い詰めるが、スマホに息子の容態悪化の通知が来たため「あんたのせいよ。」と叫びながら引き返す。、
フラフラになった父親は、地下室に薬を撒き、息子の生命維持装置を抜くと床に火をつける。息子をしっかりと抱きしめて目をつぶる。戻ってきた母親も巻き込み、家は焼け落ちた。
数年後、少年野球の試合。
バッターボックスに立っているのはマリアン。打ち上げたフライをキャッチしたのは…元気になっているアンディ。
つまりこういう映画(語りポイント)
「なんのために生まれてきたのか」などと言います。永遠の命題のようで、原則的な答えは簡単で明白。「種の保存と子孫繁栄のため」。本来は…と云う前置きは必要だけども。「なにを目的として生きるか」はその後の話。生まれてきた理由は、ただそれだけ。
ライオンは、自分の遺伝子が残る可能性を少しでも高めるために、他のライオンの子供を殺します。同じ種族なのに。「種の保存」があると同時に「自分という個体の遺伝子の継承」が本能の中に刻まれているのですね。
この映画の母親を見て、そんな話を思い出しました。
視点を変えます。
主人公が少女である意味。映画の中で「絶対に間違ったことが行われている」と確信したマリアンは必死に大人たちに訴えますが、大人たちは、きな臭い匂いを薄々感じながらも「見ないフリ」をします。そして「もう関わるな」と進言する 誰かが誰かの犠牲になろうとしている事に気づきながら、自分たちの保身、身の安全を優先する。それがいつしか憶えた処世術だと、仕方ないことなんだと考える大人たちの姿を見せつけられる。
マリアンの行動を「心のままに生きなさい」と黙認する祖父や、最後は改心してすべてを終わらせるアンディの父親。彼らの、あくまで静かな反応の仕方が印象的です。激情的になっているのは母親だけなのですね。母親以外は、極めて冷静に、自分たちのできる範囲で「正義」を選択している。そこが、この映画が、ホラーまがいの恐ろしい設定ながらハートウォーミングな秀作になっている要因。しっかりと、世代ごとの心の葛藤を描いているから。
ちなみに祖父=ピーター・フォンダ!
少女役のナターシャ・カリスは14歳。サム・ライム監督作などホラー映画で主役に抜擢されてきた「ホラー映画ご用達」女優さん、クロエ・グレース・モレッツの線で大成できる可能性を秘めている。超美人ではなく、隣の女の子的な身近さを感じさせる風貌が良い。
少年と少女の恋愛・友情物語が映画の題材として鉄板なのは、純粋な彼らを通じて、逆説的に「大人」が描かれるから。
大人として生きる僕ら「いつかの少年少女」に「それで本当にいいの?」と問題提起してくれているよう。
父親が若い女との浮気しているのは、現実逃避願望のメタファー。
「野球」=「少年の心」の象徴。
野球のテレビゲームが好きなアンディ。そもそもなぜ野球なのか?冒頭とラストに少年野球のシーンが使われているのは、男の子なら誰もが経験したスポーツであり、野球が「少年の心」の象徴であるから。特に、それなりの年齢の男性にとっては、自動的にノスタルジーを誘引されるアイテム。
サッカーでなく野球…なのは、この映画は「今は大人になった元・少年たちに捧げる物語」という意志表示だと捉えておきます。
邦題にそぐわない秀作。ラスト泣きました。
余談…洋画の邦題に関しては、常に「センス悪い」と感じます。この「マッド・マザー 生贄の少年」もたいがいな邦題です。ネタバレにもなっちゃってるし。でも、そもそも「ザ・ハーベスト」だったらこの映画を観なかった人も多いだろうし、邦題って、センスよりも集客優先だから仕方ない。検索されやすいワードとか、人気作品に似た題名にわざわざするのも、SEO的な目線でみると理解できます。インターネットでの宣伝が主になった今、味のある邦題がつけられていた時代も今や昔、とアキラメるしかないのかも。
(追記)…などと書いていたら、dvd発売時に「ユージュアル・ネイバー」と変更されたようです。やはりネタバレ題名だったからかな??