【映画で語ろう】カムシネマ★3分で語れるようになるポイント【ネタバレあらすじ】

映画を観たなら語りたい。映画の紹介から、ネタバレあらすじ、著者の独断と偏見による「語りポイント」まで。

3分で映画『殺されたミンジュ』を語れるようになるネタバレあらすじ

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基本データ・おススメ度

『殺されたミンジュ』
原題:One on One
2014年 韓国
監督・脚本・撮影・編集:キム・ギドク
出演:マ・ドンソク、キム・ヨンミン、イ・イギョン、チョ・ドンイン、テオ、アン・ジヘ、チョ・ジェリョン、キム・ジュンギ
 おススメ度★★☆☆☆(2/5)
 キム・ギドク得意の徹底した「社会への嘆き」。「社会に殺される人間たち」を寓話的設定で描いたバイオレンス。「嘆きのピエタ」同様にド・直球でわかりやすいが、寓話であると気づくまでは「?」となる部分も多い。面白い脚本だけに、絵のチープさ、照明の手抜き具合が惜しい。

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◆目次

 あらすじ(ネタバレなし)

 女子高生ミンジュが、夜道で集団に襲われガムテ―プで顔をグルグル巻きにされ殺された。

 一年後、事件に関わっていた数人の内、まず男Aが迷彩服で武装した謎の集団に拉致される。拷問され「あの日の出来事を書き出せ」と要求される。とはいえ、殺されるわけではなく男は解放された。

 そこから、7人の犯人たちが次々に拉致・拷問される。

 しかし、ミンジュ殺しの犯人たちは、皆ごく普通の生活を送る一般人。とても悪人には見えない。また、拷問する謎の集団も、その時その時で服装が違っている(時には武装、時にはヤクザ風)。

 謎の集団は、どうやらこのために集まった即席の集団であり、リ決して確固たる信念のもとに集まっているのではないこともわかってくる。

 ミンジュ殺しの犯人たちの供述は一貫して「上に命令されたから」のみ。それ以外の理由が語られることはない。

 ミンジュはなぜ殺された?謎の集団の正体は?

==以下ネタバレ==

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ネタバレあらすじ

 最初に拷問された男Aが、復讐のために集団の調査を進めると、謎の集団は、借金を抱えてホームレス同然の男、夫のDVに苦しむ妻、安月給で働く自動車整備員、等の社会的弱者の集まりだった。

 殺されたミンジュの身内であるリーダー以外は、ストレス解消が目的だった。

 拷問されたひとりの男が自殺したことでショックを受けるメンバー。リーダーの過度な暴力に異議を唱える者も多く、集団の結束が揺らいでくる。  

 軍の将軍を拉致し、リーダーは感情がたかぶりついに殺してしまう。それを機に、一段と結束が崩れる集団。「そこまでする気はない」と去っていくメンバー。

 最後の男、傲慢な会社社長を拉致した際、ついに反旗を翻したメンバーがリーダーを拘束するが、元々、強い意志などないメンバーたちは、社長側にもつかず、リーダーを解放して去っていく。

 ひとり信念をもって行動していたリーダーは失意し、その場を去るが、そこにやってきたのは、ここまで調査を続け、すべてを知った男A。
 男Aはミンジュを殺した実行犯で、社長はそれを(さらに上からの命令で)指示した立場だ。つまり共犯者だったが、男Aは、哀しそうな顔で、ミンジュを殺したのと同じ方法で社長を殺す。

 男Aは集団の衣装室にあった特殊部隊の衣装で武装すると、リーダーを追う。

 リーダーは山の中で泣きながら座禅を組んでいた。その後ろから何度も殴打する男A。生きたえるリーダー。

つまりこういう映画(語りポイント)

 この映画を常識的な目で見てはいけない。
 これは「とある世界の、架空の時代の物語」

 普通のサラリーマンが特に理由もなく、会社の(?)命令で人を殺す世界。警察が機能していないのか、素顔丸出しで拷問して生きて帰しても指名手配にならない世界。
 「なんらかの」力により支配され、言われるがままになる人間たち。これは、現代の社会を極論的視線で捉えたファンタジーだ。 

 「嘆きのピエタ」で、カネに殺される社会的弱者たちをド直球で描いたキム・ギドクが、同じく、社会の理不尽なシステムに狂わされていく人間を、比喩表現からストレートなセリフでの説明まで、手法を選ばずストレートに訴えてくる。

 「上からの命令」に従うのが当たり前。たとえそれが殺人でも。そこに罪悪感はない。「上の指示だから」仕方ないこと。彼らは普通の善人。「上から」がどこからなのか?ミンジュはなぜ殺されたのか?の説明はない。説明を省いているのではなく「そもそも理由がない(少なくとも庶民にはわからない)」のだ。そのあたりの脚本的センスは嫌いではない。エヴァンゲリオンの使徒が地球を攻めてくる理由が最後まで明かされないのと同質のもの。

 キム・ヨンミンという俳優さんがひとり七役?八役?で登場するのは「人間に本質なんてものはない。」「状況によって、立場によって、善にも悪にも、良い人にも嫌な奴にも、なんでもなれてしまう」という日和見主義な人間を表現したいため。

 それはわかるんだけど、単純にややこしい。どう見ても同じ俳優の顔なので、こんがらがるんですね。物語の世界観や構図を理解するまでは「なんで?」と思う部分が多いだけに、そこにさらにややこしく感じる要素が入ってくるもので、そこで観る気が失せる人もいるのではないか。デメリットのほうがやや大きく感じる。

 また、一般人が「正義」の大義名分を背負って「腹いせのために」リンチをする。そして、都合が悪くなるとサッといなくなる。そのあたりは、現代のネット上の私刑文化(?)への皮肉と思われる。「そんなことをしても誰も幸せにならない」ことに必死になっている姿に、なにかしら感じるものはあるはずだ。

 ただひとり、覚悟を以て遂行しているリーダーが周りに理解されず、最後に死んでいく設定は、絶対に交わらない「世代による感覚の相違」「温度差」を表わしているのか。

 

 テーマは、随所で、思いっきりセリフで語られる。説明しすぎなくらい説明してくれる。

 一握りの支配者。奴隷でしかない大多数の人間。

 同じ人間が、神のような立場に立ち、自分たちの私腹のために大多数の人間たちを殺していく。理不尽な世界に、ただ生きるしかない人間たち。世の中の『真実』に真っ向から異議を唱える。

 ド直球です。

 説明しすぎという大きな欠点はあるけど、もう少し比喩や暗喩に収めてくれたら映画としてのクオリティが上がったと思うけど、ストレートなところがこの監督の持ち味だと思えば、これはこれでアリだと思える。

 それよりも惜しいのは撮影と編集、そして照明。
 キム・ギドクが監督・脚本・撮影・編集…とひとりで多くのことを手掛けたせいか、絵が雑すぎる。まるで家庭用カメラでロクに照明さんもいない状態で撮った自主映画みたい。ネームバリューがあり、スタッフも欲しいだけ揃えられたであろう監督が、なぜわざわざそんな態勢で撮ったのかは知らないし、多作な監督だけに(少々雑でもいいから)とにかく世の中にどんどん出すという意欲の表れかも知れないけど、もう少しなんとかなったのでは?
 
 この題材を「もっと映画らしく」きちんと撮ってくれていたら、巷の評価はもっと跳ね上がっていたと思います。

▼復讐の韓国映画「名もなき復讐」

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