基本データ・おススメ度
『オールド・ボーイ(2003)』
原題:OLD BOY
2003年 韓国
監督:パク・チャヌク
出演:チェ・ミンシク、カン・ヘジョン、ユ・ジテ、チ・デハン、ユン・ジンソ、オ・テギョン
おススメ度★★★★★(5/5)
評価は総じて非常に高いわりに「後味が悪い映画ナンバーワン」と言われてしまう映画。個人的には後味が悪いどころかハッピーエンドだと思っていますが、その意見には賛同者が少ないです。どっちにしろ「ものすごい映画」であり「数年に一本レベルの傑作」であることは間違いない。エグいシーンがいくつか出てきます。苦手な方はご注意。
映画の内容を知らなくてこれから見ようという方は、ぜひネタバレなしで。
<広告>
◆目次
あらすじ(ネタバレなし)
平凡なサラリーマンのオ・デス(パク・チャヌク)は、夜の街で突然何者かに誘拐される。気が付くと、ホテルのような部屋の中に監禁されていた。奥さんは殺され、策略により、夫である自分が犯人に仕立てあげられていることをテレビのニュースで知る。そして、15年後、なぜか突然解放される。
監禁した奴を探して復讐をすると誓ったデスは、日本料理店で19歳の女・ミドと出会う。店で倒れてしまったデスは、ミドの部屋で介抱される。
やがて二人は愛し合うようになった。
突然、犯人・ウジンが目の前に現れた。同級生の協力も得ながらウジンを追うデス。ウジンは言う「お前は愚かだ。問題はなぜ監禁されたかではない。考えるべきは、なぜ解放されたか、だ。」
ウジンの動機は「復讐」。自分を監禁したウジンに、デスもまた「復讐」しようとしている。復讐VS復讐。
ウジンはなぜデスを恨んでいるのか。なぜデスを監禁したのか。さらに、なぜ15年後に解放したのか。
==以下ネタバレ==
<広告>
ここがネタバレ!
ウジンの動機は、高校時代のある出来事にさかのぼる。
ある出来事=放課後の教室で、ウジンが姉のスアと性行為をしてしまった場面をデスが陰から見ていた。デスはそれを「人に言うなよ。」と前置きしながらも同級生に話したことから噂はどんどん広まった。
周りから変態姉弟扱いされた二人。その末に姉は想像妊娠。弟の子供を宿った(と思い込んだ)ショックで自殺。
ウジンが監禁ビジネスの受付で話した監禁理由は「口が軽いから」。デス本人には「スアを妊娠させたのは俺の股間じゃない。お前の舌だ。」と言う。
ウジンの目的は、姉の復讐。
さらに、目的は「監禁すること」ではなかった。
ウジンは、解放後にデスとミドが出会うように、二人に催眠術をかけていた。二人が愛しあったのも、ウジンが仕組んだ狙いだった。絆を深めていく二人を観察していたウジンは、満足そうに笑う。
この映画の一番のネタ=ミドは、実はデスの娘だった。
15年前、ウジンは、母が殺されて孤児となった4歳の娘を引き取り育てた。デスの娘だ。そして、19歳に成長したミドとデスが出会うように仕向け、自分たちと同じ近親相姦の罪に誘導。それを事後に知らせることでデスを狂乱させることが、ウジンの最大の復讐だった。
つまり、こういう映画(語りポイント)
原作は日本の漫画ですが、内容は全然違います。基本設定以外はほぼ別物。
さらに、その後ハリウッドでリメイクされた際も、脚本のキモである近親相姦がらみの設定はなくなっていました。意図は知りません。
ハリウッド版「オールド・ボーイ」も悪くはないですが、韓国版であった良さは随分と消えてしまっている感があります。やはりこっちがいい。
いくつかの名セリフが出てきます。
「砂粒であれ岩の塊であれ水に沈むのは同じ」
自分にとっては、小さな、すぐに忘れてしまうような些細なことでも、それが、他人にとって一生忘れられないほどの傷になっている場合がある。他人に与えた傷は、針の先ほどの小さな傷でも、大きな怪我でも、傷をつけたという事実に変わりはない。…そのような意味。
みなさん、明日から口を慎みましょう。沈黙は金です。
「傷ついた者に復讐は最高の薬だ。」というセリフもありますが、同時に「だが、復讐が終わったら忘れていた苦痛が帰ってくる。」とも言っています。
真の勝者は誰か。
最後、復讐を達成したウジンが、エレベーターの中で自分の頭を撃って命を絶ちます。あれは「復讐を達成して目的を果たして満足したから」「復讐が終わって生きる目的がなくなったから」との解釈が多いようです。きっとそれもあると思いますが、僕は「復讐が完結しても、自分の中の傷はなにひとつ癒えていないことを知った絶望」に一票です。
そこにきっと「なんのために人生を費やしてきたんだ」という後悔と絶望があったと、思いたい(希望)。
そうでなければ、この映画は「悪が勝つ」バッドエンドになってしまう。
いや、そうじゃんか、バッドエンドじゃんか、と言われそうですが、上にも書いた通り、僕はこの映画はハッピーエンドだと思っています。状況は決してハッピーではないけど、復讐合戦の勝ち負けの観点で、デスとミドの勝ちなのです。だから、決してバッドエンドだとは思いません。
悪=ウジンが、復讐合戦でデスに完勝し、デスは舌を切り廃人同然となる。高笑いのウジン。本当に勝ったことに満足しているなら、死なないと思うのです。嬉しくて酒でも飲みに行きます。そうしなかった、そうできなかったのは、勝ったと思った瞬間、この戦いに実は負けていたこと。あるいは勝者はいないことに、初めて気づいたのだと解釈します。
逆の立場…デス側から考えると、
例のやや意味のわかりにくい雪山のラストシーン。最後、登場したミドと抱き合いますね。そしてミドは「おじさん、愛してる」と言い、それを聞いたデスが嬉しそうな笑みを浮かべます。「お父さん」とは言わなかったことに、デスは満足したのです。
終盤のデスの希望はただひとつ「自分はどうなってもいいから、ミドには、絶対にこの事実(二人が親子であること)を言わないでくれ」でした。その希望が叶った(と思われる)。
戦いの後、
「生きる理由を失くしたウジン」
「より強く生きていくことを選択したデス。」
勝者はデス。
さらに、復讐合戦が終わったという事実。
人間は、絶望の先に、より強い希望を抱く。
それまで意識もしなかった些細な幸せに、失くして初めてきづく。
映画が最後に言いたいことは「どうなっても希望を捨てなければ、希望を持っている限り、負けではないんだ。」というメッセージ。
「絶望」の比喩表現として、ちょいと度が過ぎた設定ではあるけど、少しやりすぎ感は確かにあるけども、これでもかと、より強く絶望を描くことで、最後の「ちょっとした希望」が、より果てしない希望に感じられる。
この映画のテーマは「希望」。
誰がなんと言おうと「希望」なのだと言い切ってしまえ。