基本データ・おススメ度
『モダン・タイムス』
原題:Modern Times
1936年 アメリカ
監督:チャールズ・チャップリン
出演:チャールズ・チャップリン、ポーレット・ゴダート
おススメ度★★★★★(5/5)
アクション・スターとしてのチャップリンの身体能力に驚く。スタントなしのアクションはまるでジャッキー・チェン。そして、一度は労働で精神を病んだチャーリーが、愛する人と出会ったことで立ち直り「君さえいれば生きていける」となるまでの究極のラブ・ストーリーでもある。チャップリンの多彩な才能が詰まった最高傑作。
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◆目次
あらすじ(ネタバレなし)
製鉄工場で働くチャーリー。終始モニターで監視される中、ベルトコンベアーにへばりつき、スパナでいたすらネジを回す単純作業を繰り返すうち、精神に異常をきたし、ネジに似たものはなんでもかんでもスパナで回す人になってしまった。
さらに、労働者の食事時間を節約するために作られた自動給食マシーンの実験台にされたりもする。
どんどんおかしくなるチャーリー。工場で騒動を起こし、ついに精神病院送りとなる。
退院日、トラックから落ちた赤い旗を、運転手に返そうと振っていると、その後ろにデモ隊がいて、デモ制圧に来た警察にリーダーと間違われて逮捕されてしまう。
刑務所内に覚せい剤を持ち込んだ男が目をつけられ、男は食堂の調味料入れに覚せい剤を隠す。それを知らないチャーリーが食事に大量の覚せい剤をかけて食べてしまい、頭が朦朧とする。フラフラ歩いているうちに牢屋に戻り損ねるが、その後に刑務官を襲って逃げようとした脱獄犯を捕まえる流れになり、模範囚として釈放される。
仕事に就くが、やはりうまくいかない。
そんな時、街でパンを盗んで追いかけられている浮浪少女(ポーレット。ゴダート)を見掛ける。
==以下ネタバレ==
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ネタバレあらすじ
少女をかばい「自分がやった」と言い張るチャーリーだったが、目撃者の証言で、やはり少女が捕まってしまう。少女に会おうとしたのか、わざと無銭飲食をして捕まるチャーリーは、護送車の中で少女に会う。
護送車がカーブを曲がり損ねたために、チャーリーと少女ポーレットは外に放り出される。「チャンス!」とばかり二人で逃亡。
道端に座り込んだ二人は意気投合。「家を建てよう」と提案し、二人での幸せな生活を妄想する。
家を建てる目的のために頑張って働きだす。デパートで勤務した時には、夜の誰もいないデパートに少女を呼び、ローラースケートをはいて広いデパート内を走り回る。夢と希望を胸に抱く、楽しそうな二人。
しかし、なにかと騒動を起こすチャーリーは、トラブルからまた警察に捕まり拘留される。
釈放の日、ポーレットが笑顔で出迎える。抱き合う二人。「良い知らせがある。家をみつけたの。」と言ってポーレットが連れて行ったのは、河原にあるボロボロの空き家だった。
それでも、二人は楽しそうにボロ屋での生活を始める。そして、工場がまた人を雇っているという新聞記事を読んだチャーリーは飛び上がって喜び「働ける!本当の家が手に入るんだ!」と叫び、工場に走っていく。しかし、そんな生活も長くは続かない。
ポーレットは、路上で踊っている姿をキャバレーの支配人に認められ、店の店員兼ダンサーとして雇われる。彼女のダンスは人気を博した。
ポーレットの口利きで、歌手として店に雇ってもらったチャーリー。いよいよ歌の時間が来たが歌詞を覚えられないチャーリーは、袖口に歌詞を書いてもらってステージに出る。
しかし、イントロで歌詞を書いた袖をすっ飛ばしてしまい、仕方なく、アドリブで意味のない言語で歌いながらパントマイムを披露。それが大ウケする。
そんな時、元々鑑別所から逃げてきたポーレットに追跡の手が及ぶ。犯罪者扱いされ二人とも店を追い出される。
路肩に座り込み「もうなにもかも終わりよ。」と絶望するポーレットに「絶望なんてない。二人で頑張るんだ」と励ます。
手を取り合って歩き出す二人の後ろ姿で…。幕。
つまりこういう映画(語りポイント)
映画の内容以前に、まず、チャップリンの身体能力と才能に驚く。チャップリンはコメディアンですが、アクション・スターでもあり、シンガーであり、もちろんパントマイマーなのですね。トーキー映画が出始め、初めて、チャップリンが肉声をフィルムに刻み込んだのがこの「モダン・タイムス」。アドリブの歌詞で歌って踊るシーンは、その才能に感動すら覚えます。
そしてアクション。吹き替えなしでアクロバティックな動きを見事にこなす姿は、まるでジャッキー・チェン。もちろん、ジャッキーのほうが意識して真似ているわけですが。現代でジャッキー・チェンがやろうとしているのは、チャップリンでありバスター・キートン、ハロルド・ロイド…つまり、サイレント映画時代の三大喜劇王のスタイルなのだということが良くわかります。
ジャッキー・チェンが、アクションを見せるために映画を作っているのに対し、チャップリンたちが作ろうとしているのはあくまで物語。そこに絶対的な着地点の相違があるため、決定的に別物ではあるのですが。ただ、ジャッキーしか知らない人がチャップリンたちのアクションを見ると、その類似性に驚くはずです。「元ネタ、こっちか!」という感じ。「モダン・タイムス」は、ストーリーを度外視して頻繁に出てくるチャップリンのアクション・シーンと歌を堪能するだけでも、充分に楽しめる映画になっている。「娯楽作品とはこうやって作る」教則本のよう。
主要テーマは、巷で言われている通り「資本主義批判」「文明への警鐘」。ただし、ただ批判したり嘆いているのではなく、その中で「労働とはなにか?」の答えを提示している。
工場での単純作業で精神を病んだチャップリンが、その後に、愛する人と出会い、彼女のために家を建て幸せに暮らしたいという人生の希望を得てから、働けることに素直に喜び喜々として職場に向かうようになる。
そこには、自分の生活のためでもなく、工場のオーナーのためでもなく、働くのは、あくまで愛する人を養うため、二人で幸せな生活を送りたいためという明確な意識改革がある。
人間が生きるためには、頑張るためには、いかに「生きる目的(モチベーション)」が必要かということ。そして、それはズバリ「愛」であると教えてくれる。
有名なラスト・シーン。絶望しながらも、手を取り合って未来へ歩き出す二人の後ろ姿は「君さえいれば生きていける」「どんなツライことがあっても頑張れる」という明快な意思表示。そのコテコテの力強さに感動できる。
私生活でチャップリンの妻でもあるポーレット・ゴダートの目が良い。実に活き活きしていて、どんな状況でも希望を捨てない強い意志が感じられる。
強烈な社会風刺、それも、資本主義などという、どうしようもないものへの風刺でありながら、例えば『街の灯』ほどの暗さや重さがないのは、前述したアクション・シーンの軽妙さと、絶望の中に希望を見る描写の力強さ、の2点に尽きる。加えて、ポーレット・ゴダートの明るさ。
個人的に、チャップリンの最高傑作だと思います。
▼こちらも名作「街の灯」