基本データ・おススメ度
『カプチーノはお熱いうちに』
2014年 イタリア
原題:Allacciatelecinture
監督:ファルザン・オズペテク
出演:カシア・スムトゥニアク、フランチェスコ・アルカ、フィリッポ・シッキターノ
おススメ度★★★★★(5/5)
男女の情熱的な出会いと、13年後の倦怠期、さらにもう一度13年前にも戻る…時系列を行き来する脚本の妙。もしや軽いラブコメ?と想像してしまうヒドイ邦題のせいで、あわや食わず嫌いでスルーしてしまうところでした。危ない。観てよかった 「人生とは?愛とは?」を描いた良作。
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◆目次
あらすじ(ネタバレなし)
冒頭、どしゃぶりの雨。バス停で雨宿りをする大勢の人たち、その中にエレナとアントニオがいた。飛び込んできた黒人の娘に足を踏まれたオバサンが騒ぎ出し、喧嘩が始まる。二人の「最低の出会い」だった。
アルバイト先のカフェに来るエレナ。バイト仲間でゲイのファヴィオとその同居人のシルヴィアは二人ともエレナの親友。店が終わって、迎えに来たのはエレナの恋人・ジョルジュ。お金持ち。
シルヴィアに誘われたパーティで、バス停で会った失礼な男…アントニオをみかけるエレナ。驚くエレナを見て「あのマッチョ、知り合い?」と聞くファヴィオに「移民を差別する最低の男よ。」と言う。
二人には友人を介したつながりがあったのだった。
アントニオは「シルヴィアの彼」としてエレナたちに紹介される。アントニオは車の整備士。パーティ中に仕事のクレーム電話に対応するアントニオの粗暴で教養のない言葉づかいに呆れる面々。
「あんな奴を連れてくるなんて」と嫌うジョルジュ。他のみんなもアントニオを馬鹿にしている。かたやアントニオは、シルヴィアとエッチをしながら「あんな奴ら、くそ面白くない」という。
カフェを経営するのが夢のエレナとファヴィオは、空き物件を下見して夢を語る。
エレナのバイト先にひとりで来るアントニオ。冷たくあしらうエレナだったが…。
==以下ネタバレ==
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ネタバレあらすじ
アントニオが字も読めないことを知って驚くエレナ。さっさと帰っていくアントニオ。
エレナは、バイト先のカフェで客の医者志望の女学生と出会う。卒業論文を書いている彼女と仲良くなるエレナ。別の席にアントニオがいる。シルヴィアもいる中で、意識しあうエレナとアントニオ。
また店にきたアントニオは今度はビールを一気飲みしてさっさと出ていく。気になったエレナは追いかける。
バイクに2ケツしてでかけるエレナとアントニオ。アントニオの整備工場でキスをし、求めあう。
ファヴィオに「友達の彼に恋をしたことある?」と聞くエレナ。「人として尊敬できない人って、どう思う」とも。
別の日、バイクで海にいくエレナとアントニオ。飛び出してきた車にぶつかりそうになる。「気をつけろ」と怒鳴るアントニオ。
海辺で全裸で泳ぐ。浜辺で愛し合う二人。
時系列は、いきなり13年後に飛ぶ。
大人になったエレナとファヴィオは、予定通り、共同でカフェを経営している。今日は13年記念パーティ。エレナはさらに店をチェーン展開して大きくしたいと考えている。
家に帰ったエレナ。母と多重人格の叔母と、子供二人、そしてアントニオと暮らしている。
かっこいいイケメン・マッチョだったアントニオは、頭もハゲて腹も出て、ただの威圧感だけすごいデカい親父に変貌している。
そして、いつまでも子供のようなアントニオに呆れているエレナとは、完全に倦怠期に突入していた。
ベッドで抱き着いてくるアントニオを煙たがるエレナ。
バイクで違反した罰金を払わないと怒るエレナ。昔は一緒に乗ったバイクや車のことも、すっかり喧嘩のネタでしかなく、ののしりあう二人。エレナは教養のない彼を馬鹿にする。
そんなある日、母のつきあいで一緒に受けた乳がん検診で、悪性のガンだと宣告されるエレナ。ショックを受ける母、叔母、ファヴィオ。アントニオは物に当たり散らし、飛び出していった。
街の美容室にいくエレナ。そこには以前から知っていたアントニオの浮気相手の女が働いていた。「アントニオは?」と聞くと、昨夜、いきなり「終わりにしよう」と言いに来たと言う。そこで、アントニオには他にも愛人がいたことがわかる。
夜、帰ってくるアントニオ。「ただいま」「おかえり」で始まった二人の会話は、ルーティンと化した普通の夫婦の会話。
それぞれの方向を見たまま、涙を流す二人。
仕事中に倒れ、病院に運ばれるエレナ。
同室には同じく重度のガン患者のエグレがいた。やせ細ってはいるが、とにかく明るくおしゃべりなエグレに癒されるエレナ。
ゲイのファビオがアントニオにカミングアウトしている。「12歳のとき父の友達の息子に恋をした。ある日、二人でベッドに入っているところを父にみつかり殴られた。そしてみんなの前でホモだと馬鹿にされた。」「数日後、相手は、海で事故にあって死んだ(自殺?)」「その後、彼の姉さんと僕は親友になった。」
それがエレナだと知るアントニオ。
エレナの主治医は、13年前にカフェで仲良くなった女学生だった。再会。
一旦退院したエレナは、後遺症で髪が抜け落ちた頭に、アントニオの元・浮気相手が作ってきてくれたカツラをかぶって生活した。
夜、エレナの容態が悪くなる、アントニオが病院に連れていく。再入院。同室だったエグレも、すっかり髪が抜け落ちていた。
「俺はどうすればいい?」とファヴィオに聞くアントニオ。「食べることも寝ることもなにもできない。生きる意味を失くした。」と。
その話を聞きながら携帯でゲームをしているファビオを怒るアントニオだったが、対戦ゲームの相手がエレナだと知って嬉しそうな顔をする。「それ、教えてくれ。」
夜、病室のベッド。隣ではエグレが寝ている。アントニオはエレナに聞く。「初めて会ったとき、俺とは体だけの関係だと考えていたか?」「こんな教養のない俺を内心馬鹿にしてたか?」しかしエレナは「最初から愛してたわ。」と言い、さらに「あるがままのあなたを愛してた。みんな私たちは不釣り合いだというけど、それは違う。本当のあなたも、二人の愛の深さも、知っているのは私だけ。」
それを聞いて裸になるアントニオ。やめて、お願い、というエレナかまわず、エレナの服も脱がす。「こんな汚い体なのに、やめて。」と頭を覆っていた布を自分でとり、抜け落ちた頭をみせるエレナだったが、それでもかまわずアントニオは、やせ細って胸も削げ落ちたエレナの体を愛撫し、上に乗る。
翌日、「最高の贈り物だったわ」というエグレ。「起きてたの?」「そう。こんなボロボロの体なのにね、ほんと男ってなんでもいいのね?」と言い、笑いあうエグレとエレナ。
その夜、エグレのベッドが片づけられた。
呆然とするエレナは、主治医の元女学生に少し悪態をつくが、「あなたは幸せ。あなたを愛している人たちに囲まれてるもの。」と言われる。
エレナが病院を抜け出して家に帰る。
家で彼女をみつけたアントニオは、車に乗せ、病院に電話をしている。「すぐに連れていきます」という会話とは裏腹に、車をUターンさせ、13年前に初めて愛し合ったあの海岸へエレナを連れていく。
幸せそうに笑う二人。車に乗り発車したところで、バイクと接触しそうになる。振り返るエレナの目に映ったのは、バイクに乗った13年前の自分たち。
時系列は、再び、13年前に戻る。
最初のカフェのシーン。「私は彼がいるの。帰って。」と突き放すエレナに指輪をプレゼントするアントニオ。「会って二度目で指輪って。変でしょ。」と返そうとするが「いいんだ、それを見たら、君は俺の生涯の女だときづいてもらえる。」というアントニオ。
アントニオとの関係をファヴィオや母たちに責められているエレナ。「親友の彼氏を奪うの?」「しかもあんな男」と。
ファヴィオのセッティングで、アントニオの彼女であるシルヴィアに本当のことを話そうとするエレナ。
レストランで「私たちは親友よね。」「嘘はなしよね。」「そして、なにがあっても相手を許すのが親友よね」などと、これからカミングアウトしようとするアントニオの話のための前フリを聞いたシルヴィアはすっかり自分の秘密がバレていると勘違いをして泣き出す。
「ごめん。ジョルジュを奪うなんて、私って最低。でも本気なの。許して。」
「え?じゃアントニオは?」
「あんな男、ダミーよ。」
ファビオと笑いをこらえるエレナ。ついには我慢できず爆笑。シルヴィアも安心して笑い出す。
出会いのころの、エレナとアントニオの楽しそうなシーンでエンドロール。
エンドロールの最後、エレナの子供たちがいう。
「乱気流に備えシートベルトをおしめください。」
つまりこんな映画(語りポイント)
まず、「カプチーノはお熱いうちに」という放題はいかがなものか。実際、僕は「軽くて中身のないラブコメ?」と想像してしまい、危うく未見スルーしてしまうところでした。意訳すると「鉄は熱いうちに打て」という意味に近いのか。
原題の訳は「シートベルトをおしめください」だから、あながちまったく違うセンスではなさそうだけども。原題の意図は、監督によると「なにが起こるかわからないのが人生。常に、シートベルトをしめておかねばならない」ということらしいです。
実際の映画は、邦題のイメージとはまったく違って「人生とは」を問う良作。
親友の彼氏、彼女の親友…という関係から、周りの反対や中傷を押し切って愛し合い、結婚したエレナとアントニオ。
しかし、そんな情熱的な出会いから、時系列が一気に13年後に飛んだときには、すっかり愛情も冷め、喧嘩ばかりしている倦怠期。
それが、エレナの乳がん発覚から急転、再び、自分たちの人生の選択に想いを馳せ、あらためて、相手への愛情や感謝の気持ちを思い出す流れ。
流れ自体はベタではあるけども、脚本のセリフや状況設定、それを受けた俳優の演技もクールで、決して「不治の病でお涙頂戴」を狙っているわけではないことがわかる。
設定に頼りきらず、しっかりと伝えたい想いを表現している感。
全体的にセンスがいいです。
13年後に飛んで、最後に再び13年前に戻って終わる、という時系列いじりも絶妙に効果を上げている。
13年前の自分たちとぶつかりそうになる…なんてシーンもあり、時の経過の残酷さや、若さへの憧憬、変わりゆく人間の儚さ、なんてことを存分に感じさせてくれる。
二人のラブラブシーンに、ほとんどセリフらしいセリフがないのも良い。説明不要なんですね。好きになった、愛した、それだけなんだ、ということが良く伝わってくる。
「あるがままのあなたを愛してた。みんな私たちは不釣り合いだというけど、それは違う。本当のあなたも、二人の愛の深さも、知っているのは私だけ。」
後半に出てくるエレナのセリフも、そこまでの行動と整合性がとれていて嘘がない。
そう、誰がなんといおうと、二人だけにしかわからない世界が必ずある。
親友の彼氏・彼女という関係から、でも好きになっちゃったんだから仕方ないという出会いのエピソードから、後半、自分が選んできた人生の選択に対して「これでよかったんだ」「貴方で良かったんだ」と心底思っている感が、潔いし心地よい。
ただ、それでも倦怠期には、相手を罵倒し、周りにも悪口を吹聴するなど、人間がどうしても犯してしまう「罪」があり、それは主人公たちさえ例外ではなくやってしまっている。そこはリアル。
だからこその「涙」に感動できる。
そして、当事者カップルの描写以上に良かったのが、エレナと異性の親友であるファビオの関係。
全編、周りの人たちの温かさやユーモアが良いのですが、その中でも、エレナとゲイの親友・ファヴィオの関係性がものすごく心地が良い。仲間やパートナーの、男女の枠さえ通り越した愛情や友情に僕らは生かされていて、それは、たとえ哀しい死を意識した時でさえ、なにひとつ変わらず「救い」になる。
特にファヴィオは、エレナが愛したアントニオ以上に、エレナと心がつながっていて、一番の理解者として存在する。異性でここまで親友になれるのは、彼がゲイであるということだけが理由ではない。
最後が13年前の「笑えるエピソードで終わる」のも良くて、そのおかげで笑って観終わることができる。そのあたりは、時間をまるっきり逆行させた「男と女の五つの分かれ路」と同じ効果。
いろんなところで何度も書きますが「映画はラストシーンが命」なのですね。
それはきっと、僕らの人生も同じ…。