【映画で語ろう】カムシネマ★3分で語れるようになるポイント【ネタバレあらすじ】

映画を観たなら語りたい。映画の紹介から、ネタバレあらすじ、著者の独断と偏見による「語りポイント」まで。

3分で映画『インヒアレント・ヴァイス』を語れるようになるネタバレあらすじ

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基本データ・おススメ度

『インヒアレント・ヴァイス』
原題:Inherent Vice
2014年 アメリカ
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ホアキン・フェニックス、ジョシュ・ブローリン、オーウェン・ウィルソン、キャサリン・ウォーターストン

 おススメ度 ★★★☆☆(3/5)

 私立探偵が、昔の彼女の愛人であるギャングのボス失踪事件の捜査を請け負い…そこからあっちゃこっちゃに話が飛んで…松田優作さんの「探偵物語(ドラマのほう)」や萩原健一さんの「傷だらけの天使」のようなテイスト。あの風味が好きな人なら楽しめます。70年代テイスト満載。

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◆目次

[:contents] 

あらすじ(ネタバレなし)

  舞台設定は70年代。退廃した世界観。マリファナ中毒の私立探偵・ドックは、突然舞い戻ってきた元カノ・シャスタから「W不倫の彼氏が、その妻と愛人に命と金を狙われている。」との相談を受ける。今の彼氏とは有名な不動産王・ウルフマンだった。
 まもなく、シャスタはウルフマンと共に失踪してしまう。シャスタとウルフマンの捜索に出るドック…。

 
 ※そこから、まぁいろいろある。いろいろあるが、それぞれ単体のエピソードはさほど重要ではない。あらすじを追うことにさほど意味は薄いと思われるため以下割愛。

つまりこんな映画(語りポイント)

「Inherent Vice」=「物事に内在する欠陥」
海上保険の用語で【避けられない危険】。タマゴは割れる。チョコレートは溶ける。ガラスは割れる。(劇中字幕より)

 難しく言うと「固有の瑕疵(かし)」ガラスを車や船で輸送すると、なにかの拍子に割れてしまうかも知れない。でもそれはガラスが常に持つ固有のリスク(欠陥)である。 
 

あるいは、映画の公式プレスシートによると、

物でも場所でも、あるいは時代、状況、もしかすると人間でも、目には見えないかもしれないが、もともとそこに存在する欠陥。(中略)それは、時に最悪の事態を招くことさえあるが、その性質を考えるとどうしても避けられないこと。

  ウルフマンの失踪に絡んだ大きなストーリーの流れはあるのですが、かといって、事件を解決することが映画の目的ではない。2時間半、話はあっちゃこっちゃに飛びます。

 登場人物も多く、下手したら「なんの話なんだよ、これ。」となります。
それよりも、金太郎アメ的に全編に流れている「欠陥だらけの」時代描写と、そこに生きる「欠陥だらけの」人間たちが生み出すなにか。そこにこの映画の意味がある。

 精神病の家出娘の運転で夜道を疾走したり。コメディ?ハードボイルド?観客が「この映画はこんなタイプ」と決めつけるのを嫌がって常に裏切ってくる。
 舞台設定は70年代。暴力、麻薬、汚職、腐敗、拝金主義、権力、エロ…。

 インヒアレント・ヴァイス(内在する欠陥)は、腐敗したアメリカの、とある地域のことを暗示しているらしい。つまり「アメリカに内在する欠陥」ということ。映画の最後にもそれを匂わせるナレーションがはいる。「この土地は、邪悪な人たちに奪われた。未来永劫、戻ってくることはない。」「船がどこか幸せな土地に着くことを願う。アメリカの運命が及ばないどこか遠くに。」

 この映画はどちらかというと社会的なテーマが根底にあり、アメリカという国に内在している不安を描いた作品ではありますが、僕ら日本人にはイマイチ理解しきれない部分も多い、なら、これ以上は、ドックとシャスタの男と女の話で語りましょう。

 なにせ、元カノ・シャスタがめちゃかわいいので。

 濃いストーリーと並行して、まだ別れたシャスタのことをめちゃくちゃ好きなままのドックと、富豪の愛人とは名ばかりで、実は単なる性のはけ口でしかなかったのだが、それでも、そんな扱いを受けても、ウルフマンを真剣に好きになっていたと語るシャスタの、哀しい恋愛の物語でもある。
 
 ラストで、シャスタはドックの元に戻ってくる、戻ってくるのだけど…
一見、ヨリを戻したように抱き合い、浜辺を歩き、寄り添いながらも、決して以前のようには戻れないとわかっている二人の心情が痛々しい。ここは本当に痛々しい。

 
 シャスタが自嘲気味に言う。
 「私はインヒアレント・ヴァイスだから。」
 壊れやすい貨物。保険が適用されない荷物、という意味か。

 ドックもまた、自分が、時代と共に生きるしかできないことを知っている。移り変わる時代に、いずれ取り残されることもわかっている。

 できるなら、これからまた二人で、どこか新しい場所を目指してほしい。そう願わずにいられないラストシーン。切ない。時代に寄り添って生きること。その素晴らしさと、時代が過ぎ去った後の虚しさ。

 この映画は、時代と共に生き、時代に取り残されていくオヤジの哀しいストーリーとみれば、社会的なこと関係なしに、どんなオヤジでも感情移入可能。

 また、ドアを蹴り倒して入ってくるビッグフット警部が良い味を出している。