基本データ・おススメ度
『卒業』
原題:THE GRADUATE
1967年 アメリカ
監督:マイク・ニコルズ
出演:ダスティン・ホフマン、キャサリン・ロス、アン・バンクラフト、マーレイ・ハミルトン
おススメ度 ★★★★☆(4/5)
この映画、実は、誰もがイメージしている「純愛感動ストーリー」とは程遠い内容なのです。登場人物ほぼ全員が自分勝手なお話。でもそこが良い。不朽の名作。
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◆目次
あらすじ(ネタバレなし)
学業優秀なベンジャミン(ダスティン・ホフマン)は大学を卒業したけど特に目標を見いだせない。
若いベンをミセス・ロビンソンが誘惑します。最初は怖がって逃げていたベンですが、実は童貞で経験がないことを軽く指摘されたことでプライドを刺激され、ついに誘惑に乗ってしまいます。
ロビンソンの娘、エレーンはベンにとって幼馴染です。両親は「エレーンを誘え」とプッシュしてきます。半ば仕方なしにエレーンをデートに誘うベンですが、異性経験が少ない二人はギクシャクしてしまいます。
==以下ネタバレ==
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ネタバレあらすじ
ベンが娘にちかづくのを良いと思わないミセス・ロビンソンは邪魔をしますが、ベンはエレーンに「君の母親と関係を持っている」と告白。当然、エレーンは傷つき、ベンから離れてしまう。ミセス・ロビンソンが、エレーンの結婚相手を勝手に決めていまい、もう式の段取りも進んでいるという。
あきらめきれないベンは、結婚式に乗り込み、花嫁を強奪してバスで逃げました。
つまりこんな映画(語りポイント)
ずばり「ひどい映画」です。同時に「珍しい映画」です。
ひどい映画なのに、やはり「不朽の名作」って、ある意味すごい。
※ひどい=面白くない、という意味ではありません。。
なにが珍しいかというと、こんなに有名で名作と言われている映画なのに、未見の人が想像する内容とは180度違う「ひどい奴らの話」だという点。大抵の人が想像する「純愛感動ストーリー」とは程遠い内容なんですね。
では、どう「ひどい」のか。あらためてストーリーを箇条書きにしてみます。
・主人公ベンは、金持ちの息子
・大学を出ても親のスネをかじっている。
・幼なじみの娘の母親と寝て童貞を捨てる。
・童貞を捨てるなりサングラスをかけて恰好つける。
・娘のエレーンが家に戻ってくる。
・娘を好きになる。
・僕は君の母とヤリまくってますが、ところで結婚してください、と言う。
・娘キレる。
・ベン、ストーカーになる。
・相変わらず高級車を乗り回してる。
・すべてを知ってやってきた怒り心頭の父親に謝りもせず「娘さんと結婚します」と平気で言う。
・娘、他の男と婚約する。
・式場に乗り込む。
・ベン「エレーン!」
・エレーン「ベーン!」(なんでや)
・暴れる。
・二人でバスに乗って逃げる。
・めっちゃ不安そうな顔してる。
以上、ひどいですよね。
◆ベン
完全な自己中。自分以外の人間をまったく重要視していない。エレーンに対しても同じ。
◆エレーン
ベンを好きになる理由が皆無。「恋してる感じの自分が好き」なだけ。ただのバカにしか見えない。
◆母親
ベンと不倫を続けながら、ベンのことをまったく好きでないばかりか、むしろ軽蔑している。すでに愛情のない旦那のかわりに満たしているだけ。「娘と会わないで」というのもヤキモチではなく「娘とこんな頼りない男を結婚させたくない」から。
つまり全員が自分勝手で無茶苦茶なんですね。観客は、二人がこの後普通に幸せになるとは誰も思わないはず。
が、しかし…
僕らも、特に若い頃は少なからず自分勝手なものでした。なにせ自分の将来が不安だから。それどころじゃないんです。他人にひどいこと言うし、運命のひとと出会えていても「他にもっとイイひとか現れれるかも知れない」なんて思うのです。そうそう現れないんです。
そんな、若気のいたり、不安、焦り、人間の愚かさをストレートに描いているから、誰もが持っている郷愁をくすぐるから、やっぱり『卒業』は不朽の名作と言われる。
バスに乗って逃げるラストシーン。
勢いでバスに乗って笑ってるまではいいとして、そこから、二人ともめちゃくちゃ不安そうな顔をするんです。そんなに不安ならやめとけば?ってくらい。
もちろん、それを狙って長廻しで撮ったのだと思います。
そのノーテンキなのか、非・ノーテンキなのか、マジメな時代だったのか、フマジメだったのか、良くわからなさが、若者ゆえの迷いや混沌を見事に表現しているのです。
式場からの強奪という「一瞬の輝き」のすぐ後ろには、おそらく前途多難であろう「現実」がすでに追いかけてきていること。二人もそれに気づきながら、走り出してしまった不安に襲われている…。
無言なのに、いろんなことがビシバシと伝わってくる名シーンです。これぞ映画。
前途多難ではあるけど、でも、彼ら二人が持っている唯一にして絶対的な希望は「若さ」。そこに希望を見出せます(見出すしかないです。)
まとめると、いろいろムチャクチャだけど名作…なんスよ。そのムチャクチャって部分が個人的には大好きでございます。間違いなく名作です。
▼5年後の1972年作、こちらもダスティン・ホフマン全開。笑えます。