基本データ・おススメ度
『アリス』
原題:Něco z Alenky
1988年 チェコスロバキア
監督:ヤン・シュバンク・マイエル
出演:クリスティーナ・コホウトヴァー
※他、ヤン・シュバンク・マイエル作品全般について。そのため、今回に限っては「ネタバレ・あらすじ」ではなく「感想」となりますが、ご了承ください。
おススメ度 ★★★★★(5/5)
好き嫌いはあれど、こんな映画があると知っておいて損はない という意味の★5
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◆目次
概要
「アリス」
監督の初長編映画。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を原作に、シュヴァンクマイエル独自の世界観で脚色、映像化した作品。通常の不思議の国のアリスと異なり、ダークで陰気な雰囲気が全編を通して漂っている。生身の役者の演技と人形アニメーションとを組み合わせており、アリス役のクリスティーナ・コホウトヴァー以外はすべて人形である。(wikipedia)
「幼い頃から、食べるということが嫌いだった。」byヤン
CGは使わず、実写のコマ撮り、ストップモーション・アニメといわれる技法を多用。映画のようなアニメのような人形劇のような、不思議な世界観。
作品はすべて「あたまおかしい」です。だから、うかつに人に薦められません。こんなのばかりをずーっと観ていたら、きっと本当に頭が変になります。
ただ、僕が強烈に魅かれたのは、冒頭の述懐…すべての作品で、そりゃもう徹底的に「食べる」に喧嘩を売ってます。「食べる」行為を、おぞましいこと、愚かなこと…と認識しているとしか思えない。いや、食べる瞬間だけじゃなく、「調理をする」「食器に料理を盛る」「食べる」「片付ける」の一連の動作を丸ごとバカにしてます。
食べ物をグチャグチャと食べる口のアップ。スープをズルズルとすする音。「調理用の刃物」「バターナイフ」「鍋」の調理器具や「舌」「歯」などの食に直結する人間の部位が、ことさら強調されデフォルメされて登場する。食べ物にバターやなにかを塗りたくる、スープをかき混ぜる、などの動きが滑稽に描かれる。
そう…「食べる」って変なことなんですよ。生き物が生き物を食べる、ということ。
食べたほうは一瞬の満足を得て、食べられたほうはこの世から消える。食物連鎖は昔からの地球上の仕組みであり、生きるために、生き物が生き物を食べるのは当然のこと。そこは宿命、つまりそういうもの。
ただ、理屈や先入観を外して、あらためてその光景を見てみると…、
動物の死骸を切り刻む。
バターナイフで何かを塗りたくる。
口に入れて歯で噛み砕く。
舌で転がして動かす。
飲み物で胃に流し込む。
食べられた者は消えていなくなる。
うん、変なことなんですよ。
おぞましいことなんですよ。
「食べるってことは命を頂いてる。だから、しっかり感謝して食べてるんだ。」なんて言ったところで、殺されて食われる側からしたら、そこで感謝なんてされてもどうなんだろうと。感謝しときゃ食ってもいいのかと。
なんでも都合よく解釈しながら、食べるという行為のおぞましさには見ないフリをしつつ「今日のディナーは××です♪」なんて喜々としているのが人間。
猫や犬を食べたら大変なことになりそうだけど、豚や牛なら平気で食べる。食べるために働いて、食べるために生きて。
ヤン・シュバンクマイエルは、ほぼ全作品に於いて、ひたすらこの「食べる」の奇異さに焦点を当てていると云う珍しい作風の監督。機会があれば「ヤン・シュバンクマイエル短編集」等をご覧ください。
アリスはいいました。
「あ、目をつぶらなきゃ。目をつぶらないと何も見えないじゃん。」