基本データ・おススメ度
『ロブスター』
2015年 アイルランド・ギリシャ他
原題:The Lobster
監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:コリン・ファレル、レイチェル・ワイズ、ジョン・C・ラリー、レア・セドゥー
おススメ度★★☆☆☆(2/5)
「45日以内に婚活に成功しなければ動物にされる。」個人的には大好きな「あたまおかしい系」ですが、一般的にはおススメしにくい。設定を聞くとコメディっぽいのですが中身は超シリアス。決して万人受けはしないけど、考察好きな映画マニアにはたまらない作品でもある。
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◆目次
あらすじ(ネタバレなし)
妻と別れた男・デビットがホテルに送られてくる。以前、デビットの兄もこのホテルに送られてきて、今は犬になっている。
シングルルームの滞在期限は最大45日。但し、狩りで森に潜む独身者の捕獲に成功すればひとりあたり一日、期限が伸びる。期間内に相手がみつからなければ動物(生物)にされる。
誰かとカップルになれたらダブルルームに移動でき、二週間の監視期間で問題ないとされたら町に戻れる。但し、カップルになることを認められるには「共通項があること」という条件があった。
デビットは、もし相手探しに失敗したら何になるかと聞かれ「ロブスター」と答える。ロブスターは100年生きられるし、死ぬまで生殖能力があるから、あとは海が好きだからだと言う。
大抵の人は犬を選ぶらしい。人気のない動物は絶滅寸前なのでロブスターを選んだデビットは褒められる。
毎朝、目覚ましの音と同時に残り滞在可能期間がアナウンスされる。
果たしてデビットは無事に相手をみつけることができるのだろうか?
==以下ネタバレ==
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ネタバレあらすじ
外の広場で同時入所らしき男二人と仲良くなるデビット。
新入生の歓迎会で挨拶をする新入生。足の悪い男は、オオカミになった母に会いに動物園へいったが、ハグしようと檻の中に入ったらどれが母かわからず、狼に襲われたという。6日前に妻が死亡したため、ホテルに送られてきたという。
ホテルではパーティが行われれる。支配人夫婦によるデュエットにあわせ、ダンスをする入所者たち。中に「鼻血が出やすい女」がいる。
猟銃を持ってバスに乗せられ、森に潜む独身者を狩りに行く。必死においかけ、容赦なく殴り倒すデビットたち。。
残り32日。
ホテル内のセミナーでは、独り者がいかに不便で危険か、二人いるとこんなに素晴らしい、という内容の寸劇を見せられる。
部屋にメイドが来る。「ズボンを脱いで。ベッドに寝て。」と指示され、パンツの上にまたがったメイドが、股間にお尻をスリスリする。パートナー探しの心理的効果を上げる目的らしい。興奮してくるデビットだったが、メイドは急に動作をやめて「いつもより早く勃ったわね おめでとう。」と言って部屋を出ていく。それでいて、ホテル内の自慰行為は禁止とされていて、みつかった者は体罰を与えらる。
狩りに出るバスの中でビスケットが好きな女性と隣になったデビットは、ビスケット女に誘惑される。なんとか理由をつけて誘いを断るデビット。女は残り日数が少ないと言い、あと数日で伴侶がみつからなければホテルの上階から身投げすると言う。
鼻血が出やすい女がプールで泳いでいる。気になった足の悪い男は、自分で鼻をうちつけ、わざと鼻血を出して女に近づく。「僕も鼻血が出やすいんだ。」共通項をみつけて目を輝かせる二人。
二人はカップルになりパーティで祝福される。ダブルルームに移るが、二人で解決できないことが起きた場合は「子供役の子役が派遣される」らしい。
残り7日。
ある女が最終日を迎え、支配人たちにレクチャーを受けている。人間最後の日は自由に過ごしてよい。本を読むとか、人間にしかできない事が推奨される。散歩やセックスは動物でもできるから愚かな選択だと教えられる。鼻血が出やすい女が、友達として「送る言葉」を読む。「あなたは可愛くてオッパイも大きい。羨ましかった。」と話すと、なぜか最後の日の女は、鼻血が出やすい女を殴る。
最後の日の女は「映画、スタンドバイミーを観ることにする。」と言う。
デビットはジャグジーで近づいた「薄情な女」とカップルになろうとする。カップルは認められ、ダブルルームのカギを手にいれる
ダブルルームのベッド、本を読むために明かりが必要な女と、寝るために暗くしたいデビット。合わない。セックスをするが、セックス中もアカリをつけてという女と、明るくなってシラケるデビット。
ある朝、デビットが起きると、薄情な女が足を血だらけにして立っていた。兄のボブ(犬)を蹴り殺したという。動じないフリをしようとしたデビットだったがやはり無理だった。「私たち合わない。嘘をついて合うフリをしたわね。」と怒る薄情な女は、デビットを支配人の元へ連れて行こうとしたが、なぜかメイドが自分も危険を冒して助けてくれる。
二人で共謀し、女を支配人の元へ連れて行った。後日、彼女は動物にされたらしいが、何の動物になったかは教えてもらえなかった。
ホテルを逃げ出したデビットは、森の中に潜む独身族に合流する。
独身族のリーダーは女性だった。リーダーは「死ぬまでひとりでいられる」「いつまでいてもいい」「恋愛やセックスは禁止だ」とルールを告げる。傍らに、女といちゃついた罰として唇を切られた男がいる。
他にも厳しいルールがあり、怪我をしても誰も助けてくれない、とにかくひとりで生きていくことを強いられる。
自分の墓も、生前に自分で掘っておくようにと言われる。
独身族の中にいた近眼の女が、デビットに一目ぼれする。彼と楽しく暮らす夢を見る。
ホテルで仲良くなったロバートが狩りにきてデビットと出くわした。
ホテルに戻ろうと誘うロバートだったが、デビットは「ここは音楽も聞けて自慰もできる。ここがいい」と言う。デビットはロバートに撃たれそうになるが、近眼の女が助ける。
助けたことは秘密にしてほしいと。人を助けることはルールに反するからだ。
ホテルのメイドは、独身族の内通者だった。嘘をついて森に来たメイドはリーダーと会う。ダブルルームの合鍵と部屋割り表などを渡す。
メイドは「頼みがある。これで最後にしてほしい。嘘をついて好きでもないデブとダブルルームで過ごすのはもう嫌だ。」という。
リーダーと男、デビットと近眼女。二組のカップルのフリをして、リーダーの実家へ行く。両親の前で演技をする四人。リーダーは優秀な企業に勤めていてデビットたちは同僚という設定だった。
デビットは近眼の女が近眼であることを初めて知る。「自分も近眼だ」と喜ぶ。森に帰った後も、さらに相思相愛になっていく二人。
夜、ホテルに襲撃にいく独身族たち。
支配人夫妻の部屋に入ったリーダーは銃で二人を脅し「ひとりで生きられるのはどっちだ?どちらかを殺す」という。
命が惜しくなった夫は、渡された銃で妻を撃とうとするが、空砲だった。それをみてニヤリと笑って部屋を出ていくリーダー。
デビットは、鼻血カップルの部屋に入り「彼の鼻血は嘘だ。」とバラす。鼻血女はナイフでデビットを威嚇し、子供役の子も「出ていけ」と狂暴になる。わかったと、部屋を出ていくデビット。
デビットと近眼の女は、恋愛がばれると殺されるので、二人しかわからないブロックサインを作って会話をした。誰もいないところでキスをして抱き合う二人。
再び、リーダーの両親の家に来ているデビットたち。そこではカップルのフリをしている設定のため、タガが外れたのか、必要以上にイチャイチャしてしまい、リーダーに疑われてしまう。
デビットたちは逃げることを考えた。狩りの途中に姿を消せば、捕獲されて動物に変えられたということになるから、追ってこないだろうと。
しかし、近眼の女が書いていた日記を読まれ、計画がばれる。
リーダーは近眼の女を街へ連れて行き、近視矯正手術だと騙して、女の視力を奪ってしまう。
きづいた近眼の女は「殺してやる」とリーダーに迫るが、目が見えないために戦えない。
デビットは「近眼」という共通項がなくなったことを悲しみ、血液型を聞いたり、なんとか共通項を探そうとするがみつからない。
夜、デビットは寝ているリーダーを襲い、自分のために掘らされた墓穴にリーダーを入れ、近眼の女を連れて森の中を逃げ出した。
朝方、墓の中で眼を覚ましたリーダーの周りには狂暴な野犬が集まってきていた。
街まで逃げてきたデビットと近眼の女。
レストラン。ステーキ用のナイフとフォークを頼んだデビットはそれを持ってトイレへ。洗面所でナイフを自分の眼を向けた…。
つまりこういう映画(語りポイント)
ネット上のレビューを読むと賛否両論。普通に考えて普通にみたら「わけわからない」映画で、単純に「面白くない」という感想になるのも良くわかる。反面、語り好きな映画マニアにはうってつけの題材のようです。
このテの「頭おかしい系(ホメてる)」の映画は個人的には嫌いじゃないです。むしろ大好きです。
そもそもテーマ=「何が言いたいのか」に関して言えば、決してわかりにくい話ではない。同監督の「籠の中の少女」も相当にアタマおかしい系の映画でしたが、あれもテーマはわかりやすかった。面白いか面白くないかはさておき。
普通に捉えれば、結婚や子育て、法律や規則ごとへの皮肉だったり、決められたルールの中で不自由に生きていく人間たちのメタファーということになるのでしょう。少子高齢化、晩婚社会、婚活ブーム、等、アンチテーゼや皮肉。
ホテルを逃げ出し独身族に入ってからは「共通項」というルールはもうないはずなのに、いつしか暗黙の了解的にルールが本人に染み入ってしまっているところなども、規則や思い込みに毒される人間への皮肉か。いろんな比喩、暗喩に解釈できる、メタファーの宝庫。
そもそも映画を見て「意味わからない」「理解できない」という感想が出るときって、主に「登場人物の行動が理解できない」「普通はあんなことしない」という常識から逸脱するなにか、に対して「納得できない」ということ。
この映画を理解する早道は「登場人物たちは人間ではない」と思って観ること!をおススメします。「人間」だと思ってるから、同じ人間として「理解できない」のです。
「他の動物や生物を『擬人化』している物語」と仮定してみてください。
彼らを「人間社会の中で、人間の決めたルールの元で迫害される【動物たち】」だと思って観ると、映画が訴えたいテーマが見えやすくなるはずです。
僕ら人間は、他の生物に対して、とても理不尽で自分勝手なルールを強いています。卵を産まない鶏は不要でしょう。後は食べるだけです。ルールにそぐわない個体を生かしておいても仕方ないです。食物なり毛皮なり襟巻なり、せめて人間様の役にたつなにかに変身してもらうしかないです。生体販売される犬猫たち。ブリーダーにとって、繁殖能力のない個体に価値はない。頑張って生殖活動をしろと、できなきゃ殺す。そんな、自分たちだけ、人間だけに都合の良いルールがある。映画の設定と同じです。
劇中で苦しむ「独身者たち」は、まるっきり「人間社会で苦しむ動物」と同じ。
ルールというものは、どんなに理不尽なものでも絶対に理由があります、要は、誰かの思惑で、誰かの利害のために、なにかしらの目的をもって作られているものです。
その元をたどれば「悪」が見えてくる。
諸悪の根源は…傲慢な人間社会。
僕としてはそう捉えるのが一番しっくりくる、というより、そうとしか見えません。
映画を観て何を感じるか、どう捉えるかは人それぞれ。
間違った解釈をされて怒るような監督ならこんな映画は撮らない。どんどん好きに解釈してくれという作品でしょう。
個人的に大好きはレア・セドゥが、例によっての不機嫌顔で冷酷な女リーダーをやってます。