基本データ・おススメ度
『狼の血族』
原題:The Company of Wolves
1984年 イギリス
監督:ニール・ジョーダン
出演:サラ・パターソン、トゥッシー・シルバーグ、デビット・ワーナー、スティーブン・レイ、キャスリン・ポグソン
おススメ度★★★☆☆(3/5)
「赤ずきん」をモチーフにしたダーク・ファンタジー。かなりヘンテコなB級映画でストーリーは不条理。ニール・ジョーダン監督のデビュー初期の傑作。
内容は割とマジメに作っているようにも見えるのですが、僕は、終始「笑かそうとしている」としか思えず、ケラケラ笑いながら楽しめました。
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◆目次
簡単にいうとこんな話(ネタバレなし)
思春期の少女が、性に強い興味を抱きながら大人になっていく。彼女の妄想や願望を「赤ずきんっぽい」話の中に織り込んだ夢オチ・ファンタジー。
ネタバレあらすじ
※wikiに詳細あらすじがありましたので、今回はそのまま転載させて頂きます。
屋根裏部屋でひとり眠るロザリーン(サラ・パターソン)。彼女は夢を見ていた。村娘ロザリーンは、狼に殺された姉の葬式の後、森に住む祖母(アンジェラ・ランズベリー)の家で狼男の話を聞いた。《昔々、村の娘(キャスリン・ポグソン)が行商人(スティーブン・レイ)と結婚したが、初夜に花婿は姿を消した。数年後、再婚した妻のところへ現われた花婿は、狼男に変身して襲いかかってきた》。
祖母は「眉毛のくっついた男は狼男だから気をつけろ」と注意した。ロザリーンに恋する少年(シェーン・ジョンストーン)は、彼女と森へ行く。しかし、途中でロザリーンは姿を隠し、少年は狼を見て村へとんで帰る。人々が心配しているところへロザリーンが戻り、鴬の巣の卵から孵った小さな赤ん坊の像を母親(トゥッシー・シルバーグ)に見せた。
父親(デイヴィッド・ワーナー)たちは、狼退治に出かける。ロザリーンは、母に祖母から聞いた話をする。《昔々、貴族の婚礼披露宴に村娘が姿を現わした。花婿に捨てられた彼女は、居並ぶ貴族に呪いをかけて、狼に変身させた》。父親は狼をしとめて戻ってきたが、狼の足はいつの間にか指輪をはめた人間の手に変わっていた。祖母を訪ねる途中の森で、ロザリーンは、眉毛のくっついた狩人(ミッシャ・バージーズ)と出会った。 狩人は、彼女より先に祖母の家へ着き、祖母を食い殺していた。怖くなったロザリーンは、狩人に発砲した。すると、狩人は狼に変身した。ロザリーンは狼をなでながら、狼少女(ダニエル・ダックス)の話をした。そこに両親や村人がやって来た。
家の中には二匹の狼がいた。一匹は、ロザリーンの十字架を首からさげていた。もう一匹は、森の中を駆けていく。
そのとき、ロザーリンは、屋根裏部屋のベッドで起きあがった。彼女に狼の群が襲いかかってくる。
(wikipediaより)
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つまりこういう映画(語りポイント)
13歳の少女がベッドで寝ている→物語は、少女・ロザリーンの夢の中のお話。夢の中で、彼女は中世の村で生きる赤ずきんちゃんになっていた。
大抵のおとぎ話が実は残酷…というのは良く言われますが、赤ずきんという物語は、特に、エロ・卑猥な暗喩に満ちています。赤は月経の血の色だとか。この映画も、そこは思い切り意識して作られていて、やたら真っ赤な口紅を塗るシーンや、鏡で自分の姿をジッと見るシーンなど、象徴的。
自己愛、他者への愛、異性…初めて感じる感覚に「この気持ちはなに?」とばかり戸惑いながら、自立に目覚め、果てしない希望に向かって巣立っていく。そんな構図でしょうか。
そう書くと、なんだか綺麗にまとまったお話のように聞こえますが、決してまともなハートウォーミングではなく、突っ込みどころ満載の、完全なる不条理劇。
お婆ちゃんが話すおとぎ話、ロザリーン自身が誰かに話すおとぎ話、夢の中でみる夢…が、たびたび挿入される多重構造になっていて、夢の中からさらに、どんどん奥の奥に入り込んでいきます。
ストーリーを常識的な思考で追ってはいけません。夢なので。
物語の主舞台となる「森の中」。これがロケ撮影ではなく、スタジオ内に設営されたセットで、その安っぽい感じが、いかにもファンタジックな雰囲気を出していて非常に好きです。
特に笑えたところ。
・中世の男のメイクがやたら濃くてオシロイ塗ってる。
・人間→狼男への変身シーンが何度か出てくるんですが、ほぼお笑い。
・例の「狼が先回りしてお婆さんを食べてしまっている。」→「狼がベッドで赤ずきんを待ち伏せしている」→「どうしてそんなにお口が大きいの?」「お前を食べるためだよ。ガオー!」なくだりがあるのですが…。
そこで、襲ってくる狼男が最初はでかくて怖いんだけど、最終的に狼に変身したら、普通にかわいいシベリアン・ハスキーになってちょこんと座っている。完全にワンコ。
・誰かの結婚式で、なぜか女性が全員、狼に変身する。ここでも横一列に並んだワンコたちが舌を出してハァハァいってる。ただかわいい。
・自分の服を引きちぎり、ロザリンを食べようとする狼男に対して「服を着ている時だけ、人間なのね?」というセリフ。
一瞬、時間を置いてからジワジワ来ます。
そういえば、お婆さんは最初から「男は狼なのよ。気をつけなさい。」が口癖で、何度もロザリンに言って聞かせます。ピンクレディーの3倍くらい言います。
「森の中で裸の男をみたら、悪魔だと思って逃げなさい。」とか「森の中で、眉毛のつながった男に会ったら気をつけなさい。」とか、そうそうありそうにない状況まで心配します。
と思っていたら、本当に森の中で眉毛のつながった男に声をかけられます。おるんかい。
突っ込みどころ満載で、観ていて飽きない映画ですが、それでいて、最後はちょっと切ない。
説教お婆さんは「呪縛」の比喩で、口すっぱく「男は敵だ。」と言い続ける設定もラストへの伏線ですが、この場合の呪縛とは「親」だったり「家系・家族」だったり「古いしきたり」だったり…いわば環境的な呪縛。それらを断ち切って「自立した未来へ向かって走り出す」流れ。
完全にワンコと化した狼男をなでながら、ロザリーンが語る「狼少女」のおとぎ話は…「人間と仲よくなりたいと思って村に近づいたメスの狼が、人間に虐待されて倒れた。しかし、ある満月の夜、傷つき倒れていた狼は、なぜか人間の姿に変わっていき、通りがかった紳士に介抱され、嬉し涙を流す…」
帰らないロザリーンを心配して村から捜索隊がやってくる。ロザリンを助けに飛び込んだ両親がみたものは…二匹の狼。とっさに猟銃を構える父親を母親が制する。片方の狼の首に、ロザリーンがつけていたロザリオ(十字架のネックレス)があることに気づいた母親は、銃口を払い、狼を森に逃がした。
ロザリンは「お婆さんを殺してくれた=呪縛から解放してくれた」狼と同化したのですね。そして森に向かって走りだす。
親離れ、自由への旅立ち…を現すラストシーン。
はちゃめちゃなようで、人間のサガをしっかり描いた傑作です。