基本データ・おススメ度
『息もできない』
原題:똥파리
英題:Breathless
脚本・監督:ヤン・イクチュン
出演:ヤン・イクチュン、ム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク、ユン・スンフン、キム・ヒス、パク・チョンスン、チェ・ヨンミン、オ・ジヘ
おススメ度★★☆☆☆(2/5)
「ふざけんな、このアマ。殴るぞ」というセリフが、意訳すると「好きだ。」になる。そんな映画。絶賛されているほど素晴らしい映画だとは思いませんが、韓国映画ならではの「臆面もなくやる」感に圧倒される傑作。暴力満載ですが、ひとまず泣けます。
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◆目次
あらすじ(ネタバレなし)
キム・サンフンは借金取り。会社は4歳年上の友達・マンシクが経営。会社といっても、社員である8人のキリトリ屋が集金してきた現金を社長が回収し、その中から報酬を現金で配る。ほとんどヤ●ザ。
サンフンは敵味方のみさかいなく、とにかくすぐに殴る。マンシクからは毎回のように「頼むから仲間を殴るな」と言われている。
サンフンは、甥っ子ヒョンインだけには優しい男で、頻繁に会いにいっては小遣いをあげたり遊んだりする。
ある日、路上ですれ違った女子高生・ヨニに、すれ違いざまにツバを吐きかけてしまう。偶然ではあったが、女子高生は気が強く「なにしやがんだ」とサンフンに迫り、すぐに殴り倒される。
少し気絶していたヨニは、気が付いてからも「弁償してね。連絡よこさなきゃ警察に通報する」と言う。呆れるサンフン。
サンフンの幼い頃、回想。家の中で妻にDVする父親。「ママが死んじゃう」と泣く妹。サンフンは黙ってみていたが、父がついに包丁を持ち出し、止めようとした幼い妹を刺し殺してしまう。おまけに妻まで、誤って車でひいてしまった。
サンフンの性格は、DVオヤジだった父と、荒んだ家庭環境によって形成されたものだった。
==以下ネタバレ==
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ネタバレあらすじ
女子高生・ヨニの家庭も荒んでいた。兄は仕事もせずに遊び歩いているし、父もまた暴力癖があり、家で飲んだくれていた。
サンフンは、集金にいった男が子供の前で妻を殴っているのを見て、いつも以上にボコボコに殴り「人を殴る奴は、自分が殴られるとは思っていない。でもいつか殴り返されるんだ。」と説教しながら、さらに殴り続ける。
社長のマンシクがサンフンにし「これを父親に持っていけよ。手に職がないから食えないだろ」と、カネを渡す。「そんな父親でもいるだけいいよ。俺みたいな孤児よりは。」と言うマンシク。
サンフンは父親の家へ行き、お金の入った封筒を叩きつけると、長い獄中生活と当面の生活に疲れ切った父親を、説教しながら殴る。黙って殴られている父親。
ヨニの家でもまた。父親と兄がお金に関して喧嘩している。それを見て険しい表情のヨニ。
サンフンは甥っ子のヒョンインを自分の子供のように思っていて、父親のいないヒョンインもまた、サンフンに父親に近い信頼を抱いていた。
授業中、ヨニの携帯がなる。サンフンから。「チンピラだ。おごってやるから出て行い。」待ち合わせ場所に甥っ子ヒョンインを連れて現れるサンフン。三人で、街で買い物や食事をする。楽しそうなヒョンイン。
ヒョンインを寝かすため、サンフンとヨニが姉の家にいると、姉が帰ってきた。「サンフンの彼女です。」と自己紹介するヨニ。
帰り際「一杯おごるって、まだおごってもらってない」というヨニと飲み屋に入るサンフン。ほとんどケンカしているような会話の中、お互いの名前を知る二人。
今日もまた、ヨニに暴力をふるいながらお金をせびる兄のヨンジェ。「貸したって返せないしょ。」というヨニに「夕方までにお金をつくってきてやる」と家を出る。
サンフンの最近の仕事のパートナーは高校生のファンギュだったが、ファンギュは実はヨンジェの知り合いだった。ファンギュの紹介で、ヨンジェが会社にやってくる。ハン・ヨンジェの名前を聞いたサンフンは「また、ハンかよ。」と言う。
サンフンが、ファンギュとヨンジェを連れて集金に出る。サンフンの容赦ない暴力をみてビビる新入りヨンジェ。何もできないヨンジェを「てめえは遊びにきたのか?」と殴るサンフン。
マンシクから「振込にするから通帳を作れよ。携帯も持て。」と言われたサンフンは、姉の働く携帯ショップへ行き、携帯電話を注文する。サンフンは姉と食事し「父親がいないからヒョンインがバカにされる。再婚相手を探せ」と進言する。姉とはいえ、サンフンとは異母きょうだいのようだ。父のことを相変わらずボロクソに言うサンフン。
ヨニは、兄のヨンジェが少なくないお金を持ってきたことを不審に思い「このお金どうしたのよ?なにか危ないことしたんでしょ?」と詰め寄るがヨンジェは何も言わない。
マンシクに「通帳を作ってきた」と渡すサンフン。通帳は2冊。「どうしてふたつあるんだ?」と聞くマンシク。「交互に振り込め」と言うサンフン。
マンシクは、サンフンに「父親を許してやれ。15年も服役したじゃないか。罪は償った。」と言うが、サンフンは「人を殺した罪が償えるのか?刑務所に入ったら罪がなくなるのか?」と、父を許す気はない。その会話と酒の勢いで腹が立ってきたサンフンは「ぶっ殺してやる」と意気込みながら、父のアパートに行く…と、父は手首を切って自殺(未遂)していた。
ヨニは、また酔っぱらって「母さんはどこだ?」とわめく父親に「母はいない。とっくに死んだの。どうして蒸し返すの?」と泣き叫ぶ。興奮した父は包丁を手にして暴れる。家を飛び出し、夜道を泣きながら歩くヨニ。
父を病院に運んできたサンフンは「輸血?なら俺の血を抜け。俺の血を一滴残らず抜きやがれ」と錯乱する。
夜道に座っているヨニの携帯にサンフンから電話。「どこにいる…出てこい。」。河原で缶ビールを飲む二人。「どうして元気ないの?」と聞くヨニに「献血したからだ。」と答える。アルバイトをはじめたことを話すヨニ。「どうしたら幸せになれる?」と聞くサンフンに「わたしのためにお金を使ったら幸せになれる」と冗談をいうヨニ。「殴ってやろうか」と言いながら、ヨニの膝に頭を乗せるサンフン。
ヨニが冗談で「あんたの親はきっと泣いてるよ。」と言いながら、膝の上のサンフンを見ると…泣いている。もらい泣きするヨニ。河原で号泣する二人。
甥っ子とプレステをして遊んだ帰り道、サンフンに甥っ子ヒョンインが「優しいのに、どうして殴るんだ。昔、パパもママを殴ってた。」と言いながら泣く。今の仕事をやめることを決意するサンフン。
ヒョンインの学芸会がある日。電話でヨニに「学芸会に来い。」と誘い、マンシクにも「今日限りだ。やめる。」と告げる。マンシクも「じゃ俺もやめる。金は溜まった。焼肉店を出す準備もできている。」と言う。夜に一杯やろうというマンシクも学芸会に誘った。そのあとに一杯やろう、紹介したい人もいる、と。
最後の仕事は、ファンギュが用事で来れなくなったため、ヨニの兄・ヨンジェと二人だった。行った先の家には子供がいて、子供の名前をサンフンと言った。なにかを感じたサンフンは、暴力をふるうファンギュを止めて「この家はいい。次行こう。」と去ろうとするが、後ろから男にハンマーで後頭部を殴打されてしまう。
道すがら、頭を抑えながら「今日はもうダメだ。頭が痛くて仕事にならない。」というサンフン。鼻からは鼻血も出てきた。そんなサンフンを、後ろからハンマーで殴るヨンジェ。いままでの鬱積を晴らすようにサンフンを血だらけにするヨンジェ。ヨンジェは逃げて行った。
道に倒れたままのサンフンは「俺を連れていってくれ。ヒョンインが待ってる。姉さんとマンシクもいる。ヨニも来るんだ。行かなきゃいけないんだ。」とつぶやく。
学芸会会場。マンシクがヨニや姉さんと合流する。家族の姿を見て喜ぶヒョンインだが、サンフンがいないことに、不安そうな顔をする。
数か月後。父も一緒に楽しく過ごす姉とヒョンイン。明るく楽しそうに生きるヨニ。父親にも優しくなったヨニ。マンシクの焼き肉店に集まって乾杯するみんな。明るい笑顔。
回想。サンフンの死に泣きわめくみんな。
街を歩いているヨニが、露店をめちゃくちゃにして暴れている兄ヨンジェの姿をみかける。ヨンジェの姿が…一瞬、サンフンに見えた。
つまりこういう映画(語りポイント)
やはり「言葉ではない」と再認識。
「ふざけんな、このアマ。殴るぞ」というセリフが、意訳すると「好きだ。」になる。そんな映画。
僕らが普段、発する言葉にたいした意味はない。いや、意味はもちろんあるが、言葉で伝えられることなんて、ほんのわずかなことしかない。その奥に潜む「真意」が、言葉の何十倍も重要なんだ。誰もが「あんなこといいやがった」と他人にイラつくことがあるだろう。でもそこで言葉尻に拘わるから誤解はさらに深まる。良い意味で言葉を信用せず、真意をくみ取ることが大事。そんなことを再確認した映画。
借金取りを題材にした韓国映画を良く見かける。
「嘆きのピエタ」もそうだが、そこには「人がカネに殺される姿」「カネに殴られる人間」が、ストレートに描かれる。
資本主義、貧富格差、学歴偏重社会…そこで弾き出された人たちにとっての「もはや、どうしようもない現実」を、容赦なく、恥ずかしげなく、オブラートに包むことなく、叩きつけてくる感性は、日本映画やハリウッドにはそうそうないナマの叫びがある。韓国映画の真骨頂。
また、人間の哀しみは愛情の欠落によって生まれること。それを救うのは愛情でしかないこと。すべての映画でほぼ共通して描かれる真理も、当然のエッセンスとしてある。
そこに「父親」というテーマを強く入れ込んだのが本作。
サンフンがヨニの膝まくらで泣く河原のシーンは号泣必至ですね。良いシーンです。ただ、そりゃ、あれをやれば観客は相当な確率でもらい泣きします。反則技に近いですが、あんなことを臆面もなくやるところも韓国映画の凄み。
巷で絶賛されているほど素晴らしい映画だとは思いません。特に目新しい着眼点があるわけでもなく、もっと良い韓国映画は他にあると思います。
解説すべき部分も多くない。とにかく観てどう感じるか、それだけ。それほどシンプルな傑作。