【映画で語ろう】カムシネマ★3分で語れるようになるポイント【ネタバレあらすじ】

映画を観たなら語りたい。映画の紹介から、ネタバレあらすじ、著者の独断と偏見による「語りポイント」まで。

3分で映画『ボディクライム 誘惑する女』を語れるようになるネタバレあらすじ

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基本データ・おススメ度

『ボディクライム 誘惑する女』
原題:A CRIME
2006年 フランス・アメリカ
監督:マニュエル・プラダル
出演:ハーヴェイ・カイテル、エマニュエル・ベアール、ノーマン・リーダス
 おススメ度★★☆☆☆(2/5)
 人間にとって一番の苦しみは『喪失』。最初から「ない」ことは苦痛にならない。一度は得たものを失くすことで人は苦しむ。2006年の映画ですがセンスは70年代に近い。特に面白い映画ではないですが、なんともいえない味はある。ハーヴェイ・カイテルがひさしぶりに(?)得意の不良オヤジ役をやってます。

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◆目次

あらすじ(ネタバレなし)

  ある日、ビンセントが仕事を終えて帰宅すると、妻のアシュリーが殺されていた。直前、ビンセントは逃げる犯人の車とすれ違っていた。タクシーの運転手の赤い服がずっと脳裏に焼き付いていた。

 3年後。

 ビンセントは愛犬ビッキーをドッグ・レースに出走させるのが仕事。順位に応じた配当を手にしていたが、飼い犬はいつも3着だった。部屋の壁には「レースに勝てば金持ちになれる」などと書いてある。

 アリス(エマニュエル・ベアール)はビンセントの事が好きで、向かいのアパートに部屋を借りた。窓ごしにビンセントの部屋が見えるからだ。二人は仲が良かったが、ビンセントはあくまで友人というスタンスを崩さない。アリスは「あなたは過去に囚われている。」と指摘し、ビンセントが自分に振り向かないのは過去の事件が解決していないからだと思っている。

 事件の関係者に接触をするアリス。「赤い上着、水晶のような指輪、タクシー車体の特徴的な傷」が、ビンセントの妻を殺した犯人の手がかりだと聞く。

 アリスは少し酔っぱらって乗ったタクシーで、運転手のロジャー(ハーヴェイ・カイテル)と知り合う。アリスに興味を持ち積極的に話しかけるロジャー。「君は寂しいだろ。恋人もいない。肌が荒れている。」と大きなお世話な会話をする。アリスはロジャーの誘いに乗ってバーに行く。

 アリスは「ある目的」を持って、ロジャーに近づいていた。

==以下ネタバレ==

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ネタバレあらすじ

 バーでお酒を飲み、タクシーで移動。ロジャーはお手製のブーメランを海に向かって投げて見せる。二人がキスをしていると、ブーメランが帰ってきてぶつかりそうになる。「これだけはいつも俺の元に帰ってくる」と言うロジャー。
 「明日、6時に迎えに来て。明日はセントラルパークで働いてる。」とアリス。

 アリスが向かいの部屋に戻ったことを確認したビンセントは電話をかけるが、アリスは素っ気なくあしらう。

 翌日、公園で炊き出しのボランティアをするアリス。そこにビンセントのタクシーが迎えに来る。タクシーでロジャーいきつけのバーへ行き、アリスは「あなたが好き」と告る。

 ロジャーの家に行く。線路脇にある木彫り職人の作業場のような自宅。時折、電車が通り過ぎる。ロジャーは上半身裸になり、アリスの服も脱がせる。そのまま激しくヤる。

 翌日、自動車修理工場。刑事の話を聞いているアリス。犯人が車の傷を修理しにくるかと張っているが現れないと言う。刑事から「ビンセントとは本当に恋人同士か?」と聞かれたアリスは「いずれそうなる。」と答える。

 一方、バーで色っぽい店員と話をしているビンセント。店員の女もも、手がかりを頼りに犯人探しに協力してくれているが、それらしい男はみつからない。ビンセントの隣の席に座る女。

 タクシーの中、アリスに身の上話をするロジャー。決して幸せではなかった過去を自虐的に話し「こんな男が最高の女とヤれた。奇跡だ。」と言う。嬉しそうな顔をするアリス。

 ロジャーは、偶然。ビンセントがいるバーに車を停めて買い出しに走る。アリスは、店内で仲良さげに話をするすビンセントと女を発見し、怒った顔をする。

 ビンセントは赤い服の男が運転しているタクシーをみつけ、でかいバールを持って追いかけるが、タクシーは逃げていく。

 アリスは、ロジャーの目を盗んで、ロジャーのタクシーの扉にわざと大きな傷をつける。戻ってきたロジャーには「誤って傷をつけてしまった。」と嘘をつく。さらに翌日、ロジャーに渡したプレゼントは「赤い服」。「なぜこれを選んだ?(赤なんて)からかってるのか?」と言いながらも、喜ぶロジャー。
 
 「俺は変わる。これから変わる」と言うロジャーに「今のあなたが好き」と言うアリス。「いままで女に対してこんな気持ちになったことはない。これ以上、深入りするのが怖い。」と言いながらも、突然然訪れた幸せにロジャーはすっかり舞い上がる。
 
 しかし、アリスは、ロジャーに飲ませた酒の中に睡眠薬を混入させて眠らせ、翌朝、ビンセントがドッグレースをやっている競技場まで連れて行く。目を覚ましたロジャーに「これで賭けてきて。男ばかりで行きにくいの。」と、お金を渡し、ロジャーをビンセントの近くに行かせる。

 赤い服を着たロジャーを発見し、車体の傷も確認したビンセントは、客のフリをしてロジャーの車に乗り会話。派手な指輪も確認。ロジャーを完全に妻殺しの犯人だと認定すると、一旦、競技場に戻り「5分で戻る」とロジャーを待たせる。

 

 待ってる間にアリスに電話をかけたロジャーが「最悪の客に待たされてる」と言うと、アリスは、少し考えてから「そこから逃げて」と言う。意味のわからないロジャーは「大丈夫」というが、アリスは「そんなことじゃないの。」とさらに逃がそうとするが、ロジャーは電話を切ってしまう。

 待ちくたびれて客=ビンセントを探しに行くロジャー。タクシー代を請求するが、ビンセントから話を聞いたらしき取り巻きにボコボコにされ、自分のタクシーごと湾に沈められてしまう。

 自宅に戻ったビンセントは、アリスに「あることがあった」「これで変わる。すべてが変わる。」「奴を忘れられなかったんだ」と言い、一緒に暮らしてもいいと告げる。複雑な表情のアリス。

 人が変わったように明るくなるビンセント。二人は愛し合い、仲の良いカップルになった。3年も向かいにすんでいて、アリスの年齢も知らなかったビンセント。「年上よ。」「ここに来る前?いろいろしてた。そしてここへ来て、貴方と会った」と漠然と答えるアリス。幸せそうな二人。

 摩天楼をみあげて楽しそうな二人だったが、アリスはそこで飛ぶブーメランをみかけ、ロジャーが生きていることを確信する。夜、ベッドに入る時にも「鍵はかけた?」と念を押す。

 刑事が湾からロジャーのタクシーを引き上げている。ヴィンセントの妻殺し犯の手がかりと、車体の傷が一致していることを確認。ロジャーの名前や身元も確認するが、遺体はなかった。

 セントラルパークでボランティアをしているアリスの前に、ロジャーが現れる。「俺と会えて嬉しいという顔じゃないな。今の俺は何者でもない。何も持ってない。家も身分証明補も仕事も。親友まで失ったかと思った」「どういう意味?」と聞くアリスに「後で会わないか。話があるだろ?」と言う。

 走って自宅に戻ったアリスを追いかけてきたロジャーは、ビンセントの名前を呼びながらドアを叩く。「俺が冷たい海の中で、死ぬこともできず、何を考えてたかわかるか?『もう君に会えない』だ。」「神が味方した。奴と何を企んでる?」と言うロジャーに、アリスは本当のことを話す。つまり、自分が、ロジャーをビンセントの妻殺しの犯人に仕立てあげようとしたことを。
  
 「そのために俺に近づいたのか」「適当に選んだのか」と哀しそうな顔をするロジャー。申し訳なさそうに泣くアリスにキスをしたロジャーは「今夜8時にバーに来てくれ」と言って去る。

 アリスがバーに行くと、ロジャーは長い間やめていた酒に溺れながらステージで踊っていた。ちかづいたアリスに「ずっと快楽を控えてきた。君のせいだ。」「みんな俺は死んだと思ってる。好都合だ。一からやり直せるんだから。新しい人生だ。わくわくする。」と語る。

 「俺たちの関係を考えていた。単純じゃない。ひとつ、方法を思いついた。一緒に町を出よう」と言うロジャーを「無理。愛していない。警察に自首する」と断るアリスだが。ロジャーは「君に選択肢はない」「モーテルにいる。金を持ってこい。そして逃げよう。」と引かない。アリスは「わかった。お金を持ってくる。」と承諾するが「但し、準備に時間がかかる」と引き延ばす。

 翌日、モーテルに入る二人。ベッドに座り「何が望みなの?」と聞くアリスに「続けていきたいだけだ。始まったものを。」「事情はわかってる。地獄から始まった恋でも…欲しい。」とロジャー。
 
 車で走り出すロジャーとアリス。アリスは、ロジャーが立ちションをしている間にダッシュボードを探る。そこには。ロジャーが用意した指輪があった。二人の結婚指輪のつもりか。

 「服を脱げ」と指示し、車内で激しくヤるロジャー。ほぼレイプ。

 朝、後部座席で眠っているロジャーの左胸に、鉄パイプを突き刺すアリス。ロジャー絶命。

 ビンセントの愛犬ビッキーがレースで初優勝した。町を歩くビンセントとアリス。「タクシー運転手、遺体で発見」という新聞記事をみつけたビンセントは、すべてを察したようにアリスの顔を見た。手を取り歩いていく二人。

 

つまりこういう映画(語りポイント)

 2006年の映画ですが、センスは70年代に近い。

 主演がエマニュエル・ベアールとハーヴェイ・カイテルであるというキャスティングもあるけど、ひねりやサプライズはなく、ひたすら登場人物の心情を察していく流れが、やれ「驚愕の結末」だの「意外な展開」と言った聞き飽きたキャッチフレーズに走った90年代以降とは違って、より「映画らしい。」

 主要登場人物3人の脚本上の役割としては…

 ビンセント:過去に囚われた男。
 ロジャー:孤独をこじらせた男。
 アリス:どんな手を使ってでも幸せを得ようとする女。

 三人とも見事に自分勝手なところが現実的で潔い。

 死んだ妻を殺した犯人をみつけるまでは一歩も先へ進めないビンセントも痛々しいが、それよりも痛々しいのはハーヴェイ・カイテル演じるロジャー。寂しい過去や孤独が痛々しいのではない。アリスという「愛」を得てしまったことと、それを失ったことが痛々しい。

 人間にとって、一番の苦しみは「喪失」にある。

 お金も愛も生活も、最初からナイものに対しては、人間はさほど執着を感じない。だから「ないこと」では苦しまない。一度得たものを「失うこと」が、なによりの苦しみになる。

 逆に言えば、失ったこともさることながら「得てしまったこと」に苦しみの根源がある。

 ロジャーは、今までマトモに得たことがなかった「愛」を得たことで、子供のように喜び、初めて味わう幸福感に満たされる。失いたくない想いは、それがアリスの思惑による偽の愛だと知った後でさえ一向に衰えず、何もかも見失うほどに狂う。

 可哀想なほどに「喪失」に苦しむ姿は、本当に痛々しいのだけど、かっこいいはずのハーヴェイ・カイテルがカッコ悪く見えるほどに、情けなく見えるのだけど、そこで、例えばアリスが情にほだされてくっつくとか、中途半端なヒューマニズムに走らないところが、この映画の味でもある。

 アリスは終始一貫して「ビンセントと幸せになるため」の行動を貫く。ビンセントは、自分の想いだけでアリスを振り回す。ロジャーもまた、自分のことしか考えていない。
 3人とも見事に自分勝手。そんな生き方が報われる可能性はものすごく薄いのだけど、その末路を描かないまま終わるところが良い。

 勧善懲悪でもなければ、カタルシスもない。そこがまた嫌いではない。