基本データ・おススメ度
『セクレタリー』
原題:secretary
2002年 アメリカ
監督:スティーヴン・シャインバーグ
出演:ジェームズ・スペイダー、マギー・ギレンホール
おススメ度★★★★☆(4/5)
SМ、変態、メンヘラ…強めのエッセンスを集めながら中身はまさかの「純愛」
ポスターや設定から想像しがちなセクシー映画では決してなく、ラブ・コメディに近い。アブノーマルでエロティックな純愛モノ。意外性満点の傑作。
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◆目次
あらすじ(ネタバレなし)
厚生施設から退院したばかりのリー(マギー・ギレンホール)は、自傷壁のあるメンヘラ娘。新聞の求人広告でみつけた弁護士事務所の秘書募集に応募する。
面接の日。事務所に入ると、泣きながら荷物を持って出ていく前任者の女性とすれ違う。デスクで妻の写真を見ていたグレイ(ジェームズ・スペイダー)。事務所の中は散らかっている、グレイはボサボサの頭で疲れた顔をしている。応募者(リー)が来たことで、おわてて身づくろいをするグレイ。
グレイは、リーのどこかアンニュイな雰囲気に、なにかの勘が働いてたようで即採用を決める。非常勤の弁護士補助員は他に何人かいた。リーの仕事は、タイプライターと電話の取次ぎ。働けることに喜び張り切って仕事をこなすリーだったが、慣れない仕事にストレスがたまり、ついに職場でも持参していた裁縫セットを使って自傷行為をするようになる。それを陰から見つけるグレイ。
ある日、グレイは、リーの仕事内容に対して厳しく攻め立て始めた。タイプミスを酷い言い方でなじる。リーの癖、髪の毛をいじる…貧乏ゆすり…舌なめずり…鼻をすする…それらをことごとく罵倒し始めた。ついには、机に手をつかせ、お尻を何度も叩く「おしおき」が加わる。リーは快感を覚える。
グレイは、自分のどSな性格を使って、リーを治療しようとしていた。
==以下ネタバレ==
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ネタバレあらすじ
リーを激しく攻め立てながら、グレイは、自らのドS趣味について「なんとか克服しようとしているが苦しい」と告白する。リーは、彼のことを好きもなったと自覚する。次の日から、職場に裁縫道具を持っていくのもやめる。
改善のきざしが見えるリー。裁縫道具も捨てた。それから、二人の行為はエスカレートし、馬具を使ったりニンジンを加えさせたりと趣味全開のグレイ。同時に、リーの仕事ぶりも順調に進みだし、グレイと共に取引先に帯同したり信用も得てくる。
夜、自宅で自慰をするリー。「交際を焦らぬこと。」と自分に言い聞かせながら、グレイに叩かれているところを妄想して。我慢できなくなったリーは、ある夜、グレイの家を訪ねるが冷たく帰される。しかし、グレイは決してリーを嫌がっているわけではなかった。彼も、ただ必死に我慢している。
その翌日から、事務所内での待遇も元に戻り、SМ行為もなくなった。ミスも攻めなくなり、すっかり冷たい態度のグレイに、エロい冗談を言って誘惑するリーだがグレイはあくまで冷たい。
自宅の風呂で、自分で自分の尻を叩くリー。ポールと会ってセックスをするが、普通のセックスではまったく興奮できない。頑張るポールに対して、ただ演技で声を出しているだけのリー。
リーは、グレイへの手紙の中にミミズを入れるいたずら。それを見たグレイはリーを呼び出す。また、デスクに手をつかせ、今度はパンストと下着を下げろと指示する。但し「ファックはしない」と宣言。パンツを下げてお尻丸出しになるリー。背後に立ったグレイは、白いお尻を見下ろしながら、自分の手でイク。そして、尻を出したままのリーをほったらかしにして、あっさり仕事に戻る。複雑な表情のリー。
たまらずトイレに行き、個室でグレイの名前を呼びながら、激しくオナニーするリー。その声を隣の個室で聞いているのは先輩女性。
廊下に飾ってあった飾り物を壊していくグレイ。中にはたくさんの女性の写真。リーの写真もある。それを焚き火で燃やしたグレイはリーに宛てた手紙を書く。「自分でも嫌になる。君には本当にひどいことをした。許してくれ。」
グレイはリーに解雇を告げる。「君を好きだが雇えない。」「君の行いのせいだ。」「荷物をまとめろ」「お前は使えないんだ」「クビだ」と矢継ぎ早に罵倒する。思わずグレイの頬を張るリー。グレイはイスに座り込み「…頼む、行ってくれ。止まらない。」と哀しそうに言う。
荷物をまとめ、泣きながら出ていくリー。リーが冒頭ですれ違った前任の女性と同じ姿。渡された手紙には680ドルの小切手が入っていた。
次の日からしばらくの間、向いの建物から様子を見ていたというリー。
新しい秘書が出勤している。リーは行動的になる。求人欄でみつけた「マゾ募集」に応募したり、何人かのSМ趣味の男とつきあうが、どうもしっくりいかない、
グレンの事務所へ行き「愛してる。セックスして」というが、グレイは「君とは、君が小切手を換金した時点で終わってる」と、さすが弁護士なことを言う。リーは机に両手をつき、ガンとしてそこを動かなくなる。
ハンストを開始したリーに、いろんな人が説得に来る。両親、ピーター、神父、関係ない人、誰の忠告も聞き入れないリー。ついにテレビ中継されるようになる。おしっこをもらしても動かない。目が座っている。野次馬が外からみている
ハンスト三日目。グレイは事務所に入って、机に手をついたまま倒れているリーを抱きしめ、風呂に入れさせ、髪を洗ってやる。ベッドにいった二人。グレイは、リーのカラダに無数にある傷のひとつひとつにキスをして、彼女を抱きしめた。あらためて「高校はどこ?」「出身は?」などと、お互いのことを聞き合いながら…。
挙式をした二人。楽しい日々。リーは、グレイを仕事に送り出し、白いシーツに、ポケットから取り出したゴキブリの死骸を置くと、庭のベンチに座り、微笑んだ。
つまりこういう映画(語りポイント)
ジェームズ・スペイダーは「ものすごく真面目な変態」
ドSの変態という設定ですが、ジェームスは、あくまでも「二枚目」で「マジメ」な演技を崩しません。この映画が決してエロティックな官能モノにならず、意外性たっぷりな純愛物語に仕上がっている要因のひとつでもある。
コメディ要素もある脚本ですが、だからといって、ふざけた演技をする気はサラサラないんですね、あくまで真面目に純愛モノを演じようとしている。
「セックスと嘘とビデオテープ」で金髪の貴公子と言われたイケメンは、今や金髪のほとんどがどこかに行ってしまいましたが、この時はまだ髪の毛がある。
自分の性癖が本当に嫌いで、そのために幸せを掴めていないことも嫌というほど自覚していて、でもやめられないサド趣味。必死に欲望を我慢し、自分を悪者にしてでも彼女を自分から遠ざけるストイックさ、「彼女となら生きていける」と気づくのが遅すぎるところ、彼女がハンストしてからも三日目までジッと動向を見守っている姿など、どんだけ慎重なんだ、どんだけマジメなんだ、と突っ込みたくなる。
でも観ていてイライラしない。それによって物語がどんどん変な方向に行ってくれるからだ。
彼の自信のなさや決断の遅さが、それも結果的に、彼女の恋心&欲望を一段と燃え上がらせることに繋がるのも、恋愛アルアルだけど、説得力がある。
SМとかメンヘラとかを抜きにして観ると、奥手な男と純粋すぎて引かれてしまう女の、ただの不器用な恋愛ストーリーなのですね。
かたやマギー・ギレンホールは、もっと単純に欲望を追求しようとする。実生活でこんな人がいたらぜひ関わりたくはないタイプですが、あまりの純真さに、年齢の割に老けた顔つきも、ややダブついたお尻の肉も、どんどん可愛く見えてくるから不思議。
この役、妙にキレイな女優を使ってもダメだったでしょう。マギーの、顔もカラダも、すべて普通っぽいところがリアルでエロくて良いのです。なにより、設定がひどいにも関わらず、すべてに対してめっちゃ前向き。だから応援したくなってくる。
自傷癖というのは、心の痛みを忘れたくて身体に痛みを与えてごまかすと言いますが、彼女は誰かに理解してほしくて、同時に、誰かを理解したかったのでしょう。
簡単にいうと「寂しかった」ということですが、それを埋める術が普通の人に比べて少しハードルが高かった。理解してもらいにくい部分を理解しあえる人を探すのは大変で、だから臆病になっていた。それは男のグレイも同じ。
つきあった男女間には、当然「二人にしかわからない世界」ができますよね。それは僕らの日常で、ごくごく普通のことなんだけど、そんなごく普通の関係を構築するまでが、彼らにとって絶望的に難しかっただけ。
無事に二人は「表向きは普通のカップル」になる。
ベッドで、彼女のカラダの無数の傷跡ひとつひとつにキスをしていくシーンは美しい。
そして最後、やや謎かけに見えるあのシーン…何の比喩なのか、考えてみました。…
きれいなシーツの上に、わざわざ虫の死骸を置く。
そんな彼女が普通か普通じゃないかを決めるのは、彼女をジャッジするのは、もう世間でもなく常識でもない、グレイただひとり。彼がそれを受け入れるかどうか、彼女のすべてを愛するかどうか。それは彼だけが決めること。
つまり「愛」のメタファーだと解釈しておきます。
純愛が愛に昇華して、映画は終わる。