【映画で語ろう】カムシネマ★3分で語れるようになるポイント【ネタバレあらすじ】

映画を観たなら語りたい。映画の紹介から、ネタバレあらすじ、著者の独断と偏見による「語りポイント」まで。

3分で映画『ペーパームーン』を語れるようになるネタバレあらすじ

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基本データ・おススメ度

『ペーパームーン』
原題:Paper Moon
1973年 アメリカ
原作:ジョー・デヴィット・ブラウン
監督:ピーター・ボクダノヴィッチ
出演:ライアン・オニール、テイタム・オニール、マデリーン・カーン、ジョン・ヒラーマン、ランディ・クエイド

おススメ度 ★★★★★(5/5)

 今みても充分に面白い!まさに不朽の名作。家族愛、親子愛という普遍のテーマをバックに、テイタム・オニールという子役がいかに天才だったかを満喫すべき映画。未見の方には「ぜひ」とおススメできます。

◆目次

あらすじ(ネタバレなし)

聖書を売り付けては人を騙して小金を稼ぐ詐欺師のモーゼは、ひょんなことから、亡くなった恋人の娘アディをミズーリ州の親戚の家まで送り届けることになる。アディは大人顔負けに頭の回転が速くモーゼの詐欺を手伝う。二人はすっかり名コンビとなり、二人旅を続けることになる。  

 母を交通事故でなくした9歳のアディ(テイタム・オニール)。母の葬儀に来たモーゼ(ライアン・オニール)は「母の彼氏」らしい。母には複数の彼氏がいてモーゼはそのうちのひとりだった。アディの身寄りはミズーリ州に住む叔母だけ。モーゼがミズーリ方面に行くと聞いた参列者たちが、アディを叔母の家まで送り届けてくれるよう頼む。

 仕方なく引き受けたモーゼだったが、いきなり、アディの母親の交通事故の示談金として200ドルを詐欺る。大金を手にしたモーゼは、すぐに車を買い替え、残ったお金でミズーリ行きの汽車の切符を買い、アディを追い払おうとする。モーゼを自分の父親ではないかと思ったアディは「200ドルは私のお金。返せ。」と言う。使ってしまって返せないモーゼは、仕方なく再びアディを乗せて出発。かくしてモーゼとアディの二人旅が始まった。

==以下ネタバレ==

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ネタバレあらすじ

 モーゼは未亡人を専門に狙った詐欺師。「生前、旦那に聖書を売ったが代金をもらっていない」と聖書の代金を徴収するのが手口。モーゼが詐欺師だと知ったアディは、詐欺を手伝うが、アディには詐欺師としての才能があった。子だくさんで大変そうな未亡人には「お金はもうもらってる。」と助ける。贅沢な暮らしをしている女性にはモーゼが設定した金額の何倍もの額をふっかけて支払わせる。子供という立場を最大限に利用してモーゼ以上に活躍。二人の所持金はどんどん増えていく。

 金遣いが荒く、女にも目がないモーゼは、ある町でダンサーの女に入れ込み、車に乗せて一緒に連れて行くと言い出す。ダンサーとその付き人の黒人娘が乗り込んできて、アディは助手席から後ろの席に降格となった。気に入らないアディ。
 いじけて「あの牛を助手席に乗せるなら私はいかない。オシッコ近すぎ!膀胱がピーナッツくらいしかないんじぇねーの?」と暴言を吐き、道に座り込む。そんなアディに歩み寄った牛みたいなダンサー女は「あたしね、長続きしないの。どうせすぐに捨てられる。だから少しだけ我慢して、私を助手席に座らせて」と心を許す。微笑むアディ。
 モーテルでもダンサーの前で見栄を張り、浪費を続けるモーゼを見かねて、付き人娘と手を組み、ダンサーとモーテルのフロントマンを強引にくっつけるアディ。それをモーゼに発見させアバズレ女だと思わせる手口で、二人を別れさせることに成功する。
 再び二人旅に戻ったモーゼとアディ。酒の密売取引をしている男と出会った二人は、男から盗んだ酒を男に売りつけるという手口で大金をせしめる。しかし、密売人には裏で悪徳保安官が絡んでいて、二人は逮捕されてしまう。取り調べ中「トイレに行きたい」と言い出すアディ。監視官が油断した隙に走って逃げる。驚いてついていくしかないモーゼ。激しいカーチェイスの末に、二人は別の州に逃げ切る。
 州が違えば逮捕できない。だが、追ってきた保安官は「逮捕はできないが、痛めつけることはできる。」と、モーゼを路地裏に追いつめてボコり金を奪われたモーゼは一文無しになる。
 傷心したモーゼは、アディを叔母のところに届ける。「早く行け」と車から降ろし去っていくモーゼ。アディは俗福そうな叔母に優しく迎えられる。
 車を止めて一服するモーゼ。彼女が残していった一枚の写真をみつける。遊園地でアディが「紙の月に座って」撮った写真。アディからモーゼへ、と書いてある。
 と、バックミラーに、遠くから走ってくるアディが写る。「なにしてんだ。一緒には行かないぞ。」と突き放すモーゼに、それまでの嬉しそうな顔から哀しい顔に変わったアディだが、すぐに毅然とした表情になり「まだ200ドル返してもらってない」と言い返す。モーゼは帽子を叩き付けて怒るが、サイドブレーキがない車は勝手に動き出す。慌てて追いかける二人。
 二人が飛び乗った車が進む道は、遥か遠くまで真っすぐ延びていた。

 つまりこんな映画(語りポイント)

 ライアン・オニールとテイタム・オニール親子、この映画以降の二人の半生は決して明るいものではなかった。離婚再婚、家族離散、ヘロイン中毒、それぞれの逮捕…。根っからのプレイボーイだったライアン・オニール、俳優として売れてお金も持っている若者に怪しい人たちが寄ってくるのも定番の構図。テイタムはのちに発刊した自伝で、父にヤクを売っていた売人から性的虐待を受けたとか、子役時代に何度も自殺未遂をしたことを告白しているらしい。どこまで本当かはわかりませんが、普通じゃない家庭環境で、普通じゃない子供として育って、10歳の史上最年少でオスカーまで取ってしまったことで、その後の人格形成になにかしら影響を及ぼしたとしても、充分にありえる話。

 そう聞くと「ペーパームーン」の中での、あの「天才的なツンデレ顔」も、ただカワイイとか演技がうまいなどの次元を最初から超えていたのかも知れないとさえ思える。

 さておき、映画を純粋に見るとやはり名作。
 随所で見れるテイタム・オニールの「とぼけた表情」が最高。

 映画の設定上でも、きっとこの二人は親子なのです。可能性は半々でしょうが、親子でないとすれば、脚本の読み方も変わってきてしまうけど…ここは素直に親子とみるところでしょう。

 名セリフ…というかイキなセリフがあります。
 ダンサー女(実は割りと良い人)を「男とすぐ寝る尻軽」に仕立て上げ、別れさせることに成功したアディ。すっかりダンサー女に騙されたと思っているモーゼが車内でアディに言う。

 「おとなになっても男を騙すような女になるなよ。」「うん。」

 騙したのは本当はアディなのです。そう言われて躊躇なく「うん。」なのです。しかも、言ってる男はそもそも詐欺師なのです。幾重にも面白さが詰まったイキなセリフですね。

 全編、とにかくテイタムの表情がイイ!イイというか、可笑しい!

 なにが可笑しいかうまく説明できない妙な可笑しさがあって、表情を見ているだけで笑える。個人的に特に好きだったのは、後半で、クルマとトラックを交換した後、運転席に座って「押してる?ねぇ、押してる?」と聞くアディの真剣な表情。真剣な顔だから余計にふざけているように見える…という、変な笑いのツボを刺激してくる。

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 テーマとしては、やはり親子愛。

 アディは最初から「私のパパなの?」と聞いてるし、きっと最後までそう思っている。モーゼは「違う。」と言い張り、終始、アディにイライラしたように接するのだけど、そのイライラぶりや冷たさぶりが、逆に、心が通じ合った親子のように見えるから面白い。信頼しているからこその口喧嘩に見えるし、きっとそう。

 父親だと思っているから詐欺を無条件に手伝う。そこには、善悪の判断も関わるか関わらないかの判断といった、通常あるはずの選択がない。家族=互いの宿命を受け入れるしかない関係での、当然の選択なのです。

 ラストも、不自由のない生活が保障されそうな叔母の家から逃げ出して一文無しのモーゼの元に戻る選択は、まだ幼いながらも、世の中で最も大事な、最も貴重なものはなにか?を本能的にわかっているから。この先、なにがあっても最後まで自分を気にかけてくれるのは、やっぱり家族という存在。
 ただ!ここで重要なのは、アディは「親に助けてもらおう」なんてまったく思ってもいないこと。むしろ助けてやるくらいに思ってる。10歳のアディが父親のモーゼを助ける側なのですよ、彼女の意識の中では。きっとそうだと思うのです。
 まったくしょうがねぇな、ついていくしかないじゃんか。なんです。

 そこが、この映画の面白さの一番のキモなのだと思います。

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 ラストのアディの表情の3変化(演技)に注目。

 モーゼの元に走って戻って来たアディは、一瞬、普通の子供のような嬉しそうな顔をします。次に「もうついてくるな!」と突き放されて哀しそうな顔をします。でもすぐに毅然とした、また大人にケンカを売っているような表情に戻り、「200ドルまだだからな。」と脅す。
 この一連の表情の演技の素晴らしさは必見。