【映画で語ろう】カムシネマ★3分で語れるようになるポイント【ネタバレあらすじ】

映画を観たなら語りたい。映画の紹介から、ネタバレあらすじ、著者の独断と偏見による「語りポイント」まで。

3分で映画『サード・パーソン』を語れるようになるネタバレあらすじ

 

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基本データ・おススメ度

『サード・パーソン』
原題:Third Person
2013年 イギリス・アメリカ
監督:ポール・ハギス
出演:リーアム・ニーソン、ミラ・クリス、エイドリアン・ブロディ、オリヴィア・ワイルド、ジェームズ・フランコ、キム・ベイシンガー
 おススメ度★★☆☆☆(2/5)
 いかにも脚本家が好みそうな作品。秀逸な脚本的トリックは素晴らしい。語りがいのある作品でいろんな人が分析していて、総じて「複雑」と言われていますが、僕は、実は単純なものを難解に見せているだけというワザあり映画、だと思っています。その理由はのちほど。ただ、それはいいとして、肝心の物語の中身が薄っぺらで面白くないのが残念。分析好きな方には★4、普通に楽しみたい方には★1、というところ。

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◆目次

簡単にいうとこんな話(ネタバレなし)

 パリのホテルで執筆する作家とその愛人、夫に離婚され子供との面会も拒絶されている女&その元・夫と子供と現妻。電話している間に子供が溺死してしまい元妻に恨まれている男が、ゆきずりのジプシーの女に出会う話。等、オムニバス形式で進む「過去への後悔にもがく人間たち」の物語。

ネタバレあらすじ

【パリ】
 作家のマイケル(リーアム・ニーソン)はパリのホテルにいた。そこ訪ねてきたのは作家志望のアンナ(オリヴィア・ワイルド)。終始、エッチしたり喧嘩したりくっついたり離れたりイチャイチャする。中年カップルの幼稚なイチャイチャ風景はハッキリ言って見ていられない。
 
【ニューヨーク】
 元・女優とはいえ、今は顔つきからして危ないタイプの女性に見えるジュリア(ミラ・ニクス)は子供の親権や面会権について元・夫と係争中。夫は「彼女が子供を殺そうとした」と主張している。心象を良くするための作戦を弁護士と考えたり、精神科医の鑑定を受けようとしている。
 基本的に情緒不安定で、仕事を探すがどこへ行っても続かなかったが、ホテルの支配人に気に入られ客席係として採用される。支配人はフロント係でもいいと言ってくれたが、世間になんとなく顔が売れているため表には出たくないという。
 ルームメイクの仕事は順調だったが、弁護士や精神科医との面談が決まっても、面会場所を書いた紙を客室に忘れて大遅刻をしたり、大事な局面で常にヘマをしてしまう。想い余って夫の家に行き強引に息子と再会。引きずり出される。
 その後、現妻から、息子がジュリアに「お父さんをよろしく。」と言われたと聞いた元・夫は少し複雑な表情になる、現妻のサムは何度かジュリアと遭遇し、同性であるジュリアへの情を垣間見せる。

【ローマ】
 スコット(エイドリアン・ブロディ)は、英語の通じないバーで、ロマ族の女・モニカ(モラン・アティアス)と出会う。お互いの子供の話で乾杯をするが、モニカは、店にかかってきた電話を取ると慌てて靴を履き替え、常に持ち運んでいるらしき大きな荷物と共に店を飛び出してしまう。スコットはモニカがバックを忘れていることに気付き店に預けるが、後日、取りに来たモニカは「その中に5000ユーロ入っていた。誰かに盗まれた」と主張する。
 基本的にモニカは、常にマイノリティな扱いを受け、バーでも粗暴に扱われ、ホテルでは部屋を与えられない。そのために大きな荷物を持って野宿をするなど、なかばホームレスのような生活をしていた。
 モニカの娘は危ない連中に誘拐されているという。船で子供を運ぶ料金として1万ユーロが必要で、バックにあった5000ユーロはその残金だという。「俺がカネを工面してやる」というスコット。その話が本当かどうか、子供が実在するのかもわからないまま、スコットはモニカに肩入れする。
 交渉のために危険な場所にも同行するなど、モニカのために奔走するスコット。ひねくれて彼を拒絶していたモニカも、やがて彼を受け入れていく。
 合間合間に、別れた妻に電話をするが出てもらえないスコット。191日前に録音された息子からの留守電メッセージを何度も聞く。
 スコットは、過去に、30秒ほど電話に出ているうちに子供をプールで溺死させてしまい、元・妻に思い切り恨まれていた。

【孤独な作家マイケル】

 ひとり、暗い部屋で執筆をする作家・マイケル。編集者に「最近のあんたが書くものは自分の過去への言い訳ばかりだ。」と指摘されていたマイケルは、開き直ったのか、妻や愛人との出来事を私小説にして出版者に企画を持ち込む。編集者は「本人に許諾をとっているのか?」と確かめつつも「出版しよう」と約束する。
 妻に電話をするマイケル。「この会話も書くんでしょ?」と皮肉っぽく言われ電話を切られる。過去に愛人に捨てられたこと。その原因は、彼女が父親と近親愛の関係にあったことを書いた日記を本人に見られたせいだ。

 以上、【4つの】物語のオムニバス。

つまりこんな映画(語りポイント)

 「一度観ただけじゃややこしくてわからない」と言われていますが、それは解釈の仕方の問題です。どうしてややこしくなっているのか?を考えてみると「実はたいしてややこしくない」ことがわかります。ややこしく感じる理由は、大抵の方が「3つの物語」と捉えているからです。僕は「4つ」だと解釈してみます。
 どういうことかといいますと、
 簡単にまとめると「作家が書いている3つの物語をオムニバスで見せながら、それらをひとり寂しく書いている作家の現実の話を、3つの物語の合間に入れ込んだ物語。」ということになる。
 もっと簡単に言い換えると「4つの物語のオムニバス映画。」ということになる。
随分簡単な説明になりました。

 つまり「3つの物語が平行して進んでいると思わせておいて、実は、4つだった」というのが最大のネタ。

 4つの内の2つ。「パリで愛人とイチャイチャしている悠々自適な作家・マイケル」「ひとり寂しく部屋で小説を書いている作家・マイケル」を、同じ名前で同じ俳優が演じて同一人物に見せかけていることがトリックなのです。仮にこれを、違う役名にして違う俳優が演じたら「単なる4つの物語のオムニバス」だと誰もがわかります。
 つまり、作家・マイケルという人物が劇中に二人出てきていることが、この映画を難解なミステリーにした要因であり種明かし。
 意外に、簡単な構造なのですね。

 そういえば、編集者に出版を懇願するときのマイケルは、ややダサい服を着て疲れた顔をしているように見えます。しっかりヒントは作ってある。

 そんな簡単なことでこれだけ難解に見える…。
 別人を同一人物に見せるトリックは、乾くるみさんの「イニシエーション・ラブ」がありますね。映画化もされましたが、あれと同じ。本来は顔が見えない小説だからできるもの。それを映画に持ってきた小説的な巧いトリックだと思います。

 …という手法は「素晴らしい!」なのですが…、

 いかんせん、パリのエピソードでのマイケルと愛人アンナとのエピソードが(僕の個人的感覚になりますが)非情に陳腐で、中年が若い女と中途半端にイチャイチャしているだけにしか見えなくて、まったく面白くないのです。
 パリでのマイケルはとても余裕があって女から積極的にセックスをせがまれる、書いている作家マイケルの願望を現したような存在だと。それなら、どうせなら、例えばですが、もっと思い切り愛欲に溺れるとか、SМクラブに通い詰めて発散するとか、成功してるもんだから好き放題やりたいことやってるような、ハチャメチャ設定にしてもらったほうが、もっと面白くもっと感情移入して観れた気がします。
 そんな派手なマイケルと対照的に、うらぶれた(本当の)マイケルが出てきた時にも、もっと哀愁を感じられたと思うのです。

 ローマでの二人のエピソードは好きです。俳優の魅力としても物語の魅力としても「妻に憎まれて絶望している男が、異国の地で、エキゾチックで不思議な女に魅せられ、すべてを投げうって助けようとする物語」って、めっちゃ好みです。単に、ロマ族の女・モニカを演じたモラン・アティアスがエロカッコよくて好みだった、というだけの話かも知れませんが。いっそ、ローマの話だけで普通に映画にしてほしかったくらい。

 サード・パーソン=第三者は、孤独なほうの作家・マイケルのことで「過去の後悔に押しつぶされそうになりながら、架空の物語の中でしか、小説の中に想いを馳せるしかできなくなった「当事者になれない」寂しく哀しい男の物語、という意味か。

 そういうと、なんだかものすごくキッツイ物語ですが、過去への後悔って結局、本人にしかわからない苦しみであることが多い。そこがイマイチ共感しにくく、映画全体を面白いと思えない理由かも知れません。