【映画で語ろう】カムシネマ★3分で語れるようになるポイント【ネタバレあらすじ】

映画を観たなら語りたい。映画の紹介から、ネタバレあらすじ、著者の独断と偏見による「語りポイント」まで。

3分で映画『スイミング・プール』を語れるようになるネタバレあらすじ

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基本データ・おススメ度

『スイミングプール』
原題:Swimming Pool
2003年 フランス・イギリス
監督:フランソワ・オゾン
出演:シャーロット・ランブリング、リュディヴィーヌ・サニエ、ジャン=マリー・ラムール
 おススメ度 ★★★★★(5/5)
 ほぼ「仮面/ペルソナ」と同じ妄想サスペンス。今となっては目新しくない手法ですが、テーマもわかりやすく良作だと思います。人一倍感受性が強い更年期の女性・サラの内なる苦しみを描いた物語。個人的な好みで★5

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◆目次

あらすじ(ネタバレなし)

やや疲れた中年推理作家・サラが、執筆のために別荘に行く。そこで若く奔放な女性が現れる。サラの内面や願望を現す存在(と思わわれる)ジュリーとの共同生活を通じて、中年女・サラの葛藤や欲求、懺悔、後悔、希望…さまざまな内面を浮き彫りにする謎かけ映画。

 人気シリーズを持つ推理作家・サラ(シャーロット・ランブリング)は、推定年齢55歳ほどの中年女性。出版社の社長であるジョンに、仕事の関係者以上の想いもある模様。
 サラは、新作の執筆のためジョンの所有する別荘を借りる。まもなく、そこにやってきたのはジュリーという若い女。ジョンの娘でしばらく別荘に滞在するという。共同生活が始まるが、プールサイドで構想を練るサラの元に、おっぱい丸出しでやってくるジュリーにいらつき、「静かに仕事をさせて」とキレる。
 別荘のプールの水面には木の葉がたくさん散っており、サラは「細菌だらけよ」と避けるが、ジュリーは「ただのゴミと葉っぱよ。」と気にせず全裸で泳ぐ。
 別荘に男を連れ込むジュリー。さっそく男とやりまくる。その声にベッドで耳栓をするサラだったが、翌日には、耳栓をするのをやめた。
 別の日、また違う男を連れ込むジュリー。そんなジュリーをみてインスピレーションが沸いたサラは、パソコンのデスクトップに「JULIE」というフォルダを作り、彼女をモデルにした小説を書き始める。

==以下ネタバレ==

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ネタバレあらすじ

 「いろんな男を連れ込んで。お母さんにいいつけるわよ。」と説教をするサラに「書くだけで行動できない欲求不満のフランスババァ」と罵る。プールサイトに落ちていたジュリーのパンティを拾って部屋に持ち帰るサラ。そのパンツをみてイメージを膨らませ小説を書き進む。サラはプールの木の葉を掃除し、綺麗になったプールで泳ぐ。
 ジュリーを誘い食事にでかけるサラ。ジュリーの父であるジョンの女関係を聞き出したい目的もあったが「本人に聞いてよ。」と拒否される。
 ジュリーが自分の過去の話を語りだす。「父と母はひと夏だけの関係だったこと」「母はニースに引っ越したこと」。それを受けて、サラは「見た目で判断しないで。」「マリファナだってやるのよ。」とマジメな風貌とは似合わない『私は悪い女アピール』をする。
 ジュリーの母が、ジョンとのなれそめを書いた私小説を出版しようとしてジョンに反対された話を知る。その小説はラブストーリーで「血とセックスとお金」を描くのが好きなジョンに通じなかったと言う。
 ジュリーがパソコンをみて、サラが自分のことを小説にしていることを知る。
 サラはいきつけのカフェの店員・フランクに好意を持っていたようっだが、ある日、ジュリーがフランクを家に連れてくる。複雑な表情のサラ。三人で飲み、ダンスを踊るが、サラの小説の題名をジュリーとフランクに馬鹿にされ、気分を害する。
 夜、ジュリーとフランクは全裸でプールで泳ぎ、ジュリーはプールサイドに座ったフランクの股間に顔を埋める。それをみて水面に石を投げるサラ。二階からサラが石を投げたことをきづいたフランクは「やめろ」とジュリーを押しのけ服を着ようとする。そこでジュリーがフランクを殺してしまう。サラは気づいていない。
 朝、ひとりで寝ているジュリーをみて安堵の笑いを浮かべるサラだったが、やがて不信に感じてフランクの店や自宅を訪ねるが、当然フランクはどこにもいない。その最中、別荘の管理人であるマルセル(爺さん)の家で、ジュリーのことを知っている娘に出会い「ジュリーの母は事故で死んでいる」ことを知る。ジュリーはなぜか錯乱してサラを母とまちがって抱き着いたりするが、落ち着くと、自分がフランクを殺したことを告げ、その理由は「貴女の小説のため」だと言う。
 サラはジュリーのために偽装工作をし殺人事件を隠蔽する。しかし、庭の掃除にきたマルセルに痕跡を発見されて焦る。なんとかごまかそうと、マルセルに声をかけ、いきなりおっぱいを見せてごまかす。部屋に来たマルセルに今度は全裸を見せてごまかす。
 別荘を出ていくというジュリー。どこかの街で仕事がみつかったらしい。送り出したサラが部屋に戻るとジュリーからの手紙があった。
 手紙の中には、ジュリーの母が書いた小説が同封してあり「これをあなたが出版して。あなたが母を生き返せて。」と頼む。サラは、ジュリーの母の小説を元に、ラブストーリーを完成させる。
 都会に戻ったサラ。出版社へいきジョンに小説の話をするが、ジョンはその昔、ジュリーの母に言ったのと同じように「これはダメだ。活劇、推理小説を書け。」という。それを聞いたサラは笑って「そういうと思った。」と、すでに製本されている小説を取り出す。他の出版社に持ち込みすでに発売が決まっているという。「サインをしておいたから、娘さんにプレゼントして。」といわれ、不可解な顔をするジョン。
 部屋を出ていくサラと入れ替えに若い女性が入ってきた。ジュリアという女性はジョンの娘だという。
 ラストはイメージ・シーン。プールで泳いでいたジュリー…と思われたのはジュリアだった。バルコニーのサラと手を振りあう。さらに手を振っていたジュリアはいつのまにかジュリーに変わっていた。笑顔で手を振り続けるサラ。

つまりこんな映画(語りポイント)

 ほぼ「仮面/ペルソナ」(イングマール・ぺルイマン)ですね。「仮面」は、1966年に心理学者ユングのペルソナ論をモチーフに作られた妄想物語ですが、構造はまったく同じです。オマージュというにも似すぎている。「仮面」を原作として設定を変えて焼き直した…という感じ。個人的に「仮面~」が生涯10本指映画の1本なので、自動的にこの映画も★5です。

 更年期の女性・サラ。別荘で出会った若く奔放な娘・ジュリーは実在するのか?それともサラの妄想か?

 ということですが、ここは普通に「妄想」と考えるほうが自然でしょう。実在する…と考えても映画として充分面白いですが。妄想だとして…その解釈も人によっていろいろあると思います。また、観た人が好きに解釈していい…という作品でもあります。
 以下、あくまで僕なりの解釈ですが…。

 ジュリーは、サラにとって「願望」「失くした若さへの羨望」「そうありたかった自分」「世の男への復讐」…等、サラの内面を投影した存在であると。
 「仮面/ペルソナ」が「もうひとりの自分、自分の内面の姿」であったのに対して、こちらは「そうなりたかった姿」。

 真面目な性格で、常識派で、世間的にも成功しているけど…女として満たされない部分が自分の中で確実に肥大化している。そこで、若く魅力的で、性に奔放で、言いたいことを言う…そんなジュリーのキャラクターはサラの願望そのもの自分の性格的に決してそうはなれない、なれなかったキャラクターなのだと思います。

 前半、何度かジュリーがサラに酷いことを言います。「欲求不満のババァ」などと。社会的立場もあるから、現実ではそこまで誰かにひどいことを言われる機会もないでしょう。いっそボロクソに言われたい。それによってストレスを放電したい。マゾ願望。自虐的な願望。

 すべてのエピソードが、サラという女性の歩んできた人生を想像させるメタファーになっています。

 作家として本当に書きたい物語は、出版社社長であり好意を寄せる存在のジョンに却下される。…それは「男性からの抑圧」「うまくいかない男性関係」を現す比喩。最後の、ジョンに内緒で他の出版社から本を出すエピソードは「男に対する反抗・復讐」願望ということになります。そういえば別荘でも、ジュリーがカフェの店員(男)を殺しますね。それも復讐願望。事件の前、プールサイドで口を使って男に奉仕しているシーンは「男に仕えてきた。男のいいなりになってきた過去」でしょうか。事件の痕跡を発見した老人にカラダを与えて口止めするシーンは、そうやって世の中を渡ってくるしかなかった「女の悲哀」

 最初のほうで、木の葉だらけのプールをみて「細菌だらけ。汚い。」と感じるサラに対して「ゴミと木の葉だけじゃん。」と気にせず泳ぐジュリー。この対比もわかりやすくて、「なんでも常識的に考え、慎重に、普通に、生きてきた」サラの、「もっと大胆に感覚で生きてくればよかったかも…」という後悔の念でしょうか。

 隋書に散りばめられた謎も、たとえば「十字架」は、ストレートに「懺悔の想い」を現しているのでしょうし、決して難解ではないです。割とわかりやすい。

 もちろん、僕とはまったく違った解釈をする人もいるのでしょうけど。それもこれも、誰かが感じたことが、この映画の答えということになる。
 
 年月とは本当に残酷です。歳をとるって残酷なのです。
 誰もが避けられないことだけに、世の中では「歳をとるって素晴らしい」「人間、50歳からが面白い」なんて、ポジティブに考えることがもてはやされていますが。正直な本音をいえば…。もし神様が現れて「若返ることができるけどどうする?」と聞かれたら、大抵の人は「はい、若返ります。」と言うんです、きっと。それが本音。

 過去への後悔、徐々に朽ち果てていく自分の肉体、作家という設定の神経質なイメージも相まって、人一倍感受性が強い更年期の女性・サラの内なる苦しみを描いた物語です。良作。これはおススメ♪